第116話 ホスロー2世に転生しました・中編

 かくして、俺は6世紀末のペルシャに転生した。


 この時代、サーサーン朝は緩やかな衰退期から、本格的な衰退期に入ろうとしていた。

 緩やかな衰退期の始まりは、もう100年以上昔に始まっていた。


 それを何とか押しとどめたのが、俺と同じ名前をもつホスロー1世だ。


 ホスロー1世は国の衰退原因を、分散しすぎた貴族共のせいだと考えた。だから、徹底的に貴族の権限を削減し、皇帝が支配する地域への中央集権化を図ることにした。


 その勢いで彼は遊牧民エフタルを滅ぼし、サーサーン朝の繁栄を取り戻したのだ!


 ただし、改革というのはその意図を正確につかんでいないとならない。そうでないと改革によって既得権益を奪われた者が反撃に出るからだ。

 悲しいかな、ホスロー1世の改革の意図を、続く者は理解しなかった。


 このため、彼の死後、サーサーン朝は長い停滞期に入る。

 貴族達は反撃するし、皇帝が見込んだ地域への中央集権化が進んだことで地方が衰退し、農業力が弱くなった。シルクロード貿易で富を得た一部の者が富裕化したが、そいつらは正直、国や宗教に強い忠誠心を持たない。金にだけ忠実だ。


 俺は21世紀日本の話をしているのではないぞ。

 6世紀末のサーサーン朝、エーラーン・シャフルの話をしているのだ。


 20歳で即位した俺だが、国内は絶賛反乱中だ。

 有力貴族であるミフラーン家が堂々と反乱を起こした。国家を支配した後の何らの抱負も持たない連中ではあるが、ただ支配したいという理由だけで支配をし、混沌と腐敗をまき散らしている。


 これで死ぬのなら、必死に回避策を練らなければならないが、逃亡に成功するので史実に従うことにした。宿敵ビザンツの首都コンスタンティノープルに逃げ込むしかない。

 逃げ込んで、「このままエーラーン・シャフルを放置していたら、とんでもない内乱を周辺に巻き起こす。難民は無数に出るわ、正規軍が不在となって国境近くの村々も略奪の嵐だ。毎年途方もない軍事費をねん出することになるぞ。俺の皇帝復帰を手伝え」と主張した。


 俺は21世紀のロシアや中国の話をしているのではないぞ。

 6世紀末のサーサーン朝、エーラーン・シャフルの話をしている。


 ビザンツは「おまえはプーチンかもしれないけど、ロシアが分裂して内戦始めたらもっとやべえから支援するよ」という論理で俺に協力してくれた。


 かくして、俺はサーサーン朝唯一の皇帝となった。


 で、どうするかというと、道筋は一つしかない。

 すなわち、ホスロー1世が進めた中央集権を完成させ、唯一無二の完璧な皇帝として君臨することだ!

 権力分散などナンセンスだ!

 中途半端は身を亡ぼす!

 中途半端は誰も幸せにしない!


 例え、やることが汚いと言われても、俺ががっちり国内を掌握すれば、結果的には周りも得をすることになる。

 ビザンツもインドも中国もそれは理解しているだろう。

 そうだ、周辺地域の問題も含めて、全て国内問題なのだ!


 俺は20世紀のイラクの話をしているのではないぞ。

 6世紀末のサーサーン朝、エーラーン・シャフルの話をしている。


 10年ほどかけて、俺は国内にいた反対分子を一掃した。

 エーラーン・シャフルは昔日の繁栄を取り戻した。首都クテシフォンは24時間常に明るいコンビニのような都市となったのだ!


 ただし、ここまでは史実のホスローも辿った道だ。

 ここから先、道を違えてはいけない。

 俺は真に唯一無二の絶対皇帝として、このサーサーン朝に君臨しつづけなければならないのだ!


 ビバ! ホスロー・アパルヴェーズ!

 ビバ! 俺!

 俺だけが神だ!



"女神の一言"

『アパルヴェーズというのは勝利者という意味で、内戦に勝利したことからついた敬称です』

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