第115話 賭けるのは国家の存亡 ~ ホスロー2世に転生しました・前編

 俺の名前は奥洲天成。


 女神の呼び出しを受けたのだが、どうやら行き先は中東らしい。


 中東というと、以前、ダーラヤワウシュ3世に転生して痛い目に遭った。

 もし、また行くのなら、今回は同じ失敗は繰り返さないようにしなければ。


『テンセイ、もう一回ペルシャに行ってもらうわよ。ただし、今回はほぼ千年くらい後になるわ』

「千年後か? ということは、ペルシャはペルシャでもサーサーン朝の時代になるな」


 ペルシャの世界帝国というと、最初の世界帝国であったハカーマニシュ(アケメネス)朝が有名で、二番手のサーサーン朝は若干影が薄い。

 だが、エーラーン・シャフルと呼ばれたこの国も、力強さでは負けていない。創設直後はローマ帝国と互角以上に戦ったし、中東交易を陸路・海路ともに支配したため商業も盛んになった。


 ローマの金貨に対抗して、ペルシャは銀貨を鋳造し、ローマよりも先に税金を金銭で支払わせることも行ったということだ。


 とはいえ、サーサーン朝の支配地域はインド西部も含むし、遊牧民の強いユーラシア平原も含んでいる。

 最初の安定期を過ぎてしまうと、これらの地域で激しい敵対行動に遭う。

 特に遊牧民という点ではエフタルに苦しめられ、時の皇帝(諸王の王)が戦死することもあったほどだ。


 6世紀の一時期、ホスロー1世がエフタルを潰して、一時的に強いサーサーン朝を取り戻した。

 ホスロー1世に転生できるのなら、色々楽だが、世の中そうは甘くないだろう。

『今回の転生先は、ホスロー2世よ』


 同じホスローでも2世の方か。


 ただ、この2世もサーサーン朝の皇帝の中では人気がある部類だという。


 正直、彼がなしえたことはあまり多くない。ローマ皇帝ヘラクレイオスとサシの勝負をすることになり、片やコンスタンティノープルまで攻め上がり、他方もテーシフォン(クテシフォン)を目指すというお互いの首を絞め合うような展開に持ち込んだが、負けてしまった。

 この敗戦は高くついてしまい、ホスロー自身は求心力を失い暗殺されることになった。それどころかホスローの死後から15年後にはサーサーン朝自体も倒れてしまったのだから、亡国の皇帝と言えなくもない。


 それでも、国家の命運をかけて戦った点でイラン国民はシンパシーを感じるらしい。パラグアイのロペス・ソラーノ大統領あたりが近いかもしれないが、仮に失敗したとしても後々評価されるということなのだろう。


『中々面白そうでしょ?』

「確かに……、ややこしい勢力図がめぐらされた地域に放り込まれるわけだからな」


 難易度はかなり高いだろう。

 ただ、やりがいがありそうな人物であることも確かだ。

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