第113話 ニコラ・テスラに転生しました・後編
私、新居千瑛が転生したニコラ・テスラは、電流という分野においては、トーマス・アルバ・エジソンを叩きのめしたはずだったわ。
しかし、私も見落としていたことがあるの。
彼は根性論という点では飛びぬけた存在であるという事実を。
何と、あれだけ力の差を見せつけたにも関わらず、エジソンは私達の電気事業に割って入り、アメリカの市街地の電化計画を直流でやる計画をぶちまけたのよ。
手近な場所……最寄り駅とかバス停とかコンビニに行く方法を考えてみてほしいの。道が全部一方通行だと大変でしょ? どれだけの費用がかかるか知れたものではないわ。
エジソンはそれをやると言い出したのよ。
しかも、交流を用いる私達と競争になったら不利になると分かっていてやろうとしているから性質が悪いわ。
どうやって逆転するかって?
特別なことではないわ。政治やら宣伝やらを使うわけよ。
彼は発明王として実績があるから、味方が多いから、技術としては負けていても宣伝力で逆転できると思ったのね。
とんでもない話ですって?
政治や宣伝で品質を逆転するなんてことは今でもしょっちゅうあることよ。
ただ、ここまで品質差がついているのに逆転を狙うというのは中々ないと思うけど。
それにしても、これはまずいことになったわね。
史実でエジソンは逆転しようとして「交流の電気は危険だ!」と言い出すの。
そして、そのために部下を使って、動物実験を始めるのよ。「交流の電気だとこんな風に動物が死にます」ってわざわざピーアールするのね。
その犠牲者達が最初に抗議していた動物達だわ。
それでも足りないから死刑囚まで交流電気の電気椅子で殺そうと言い始めるの。とにかく「交流電気を導入したらみんなが死ぬ」と言いたかったのね。
結局、交流電気が勝つのだけど、動物達も死刑囚も死に損となってしまうわけ。
ただ、エジソンを叩きのめすだけでなく、動物達も助けなければいけない以上、この展開が実現されると私の負けルートになってしまうわね。
そうはさせないわ。
エジソンからせしめた5万ドルをもって、まずはあらゆる地域の直流・交流双方の試算を出して配ることにしたわ。もちろんエジソンにも配るわよ。「これだけのカネを出すなら、前回同様手を打ってあげてもいいわ」と手紙をつけて。
次に先手を打って、「エジソン一派は交流が危険だと言い出すわ。彼らはまず動物を生体実験にかけ、次に死刑囚を電気椅子に座らせ、最後に交流電機を使う人達の電線を切って燃やそうとしはじめるわ。そんな連中の使う直流電気を受け入れるのかしら?」と広告を大々的に出すことにしたわ。
先に「おまえは勝ちたいからこうするだろう?」とこちらが手の内を宣言してしまえば、同じことをすれば「エジソンの奴、テスラの言う通りのことしか出来ないじゃん。m9(^Д^)プギャー」って馬鹿にされることになるわ。
エジソンは「自分に対する人格非難だ」とか文句を言っているけど、二つ目までは実際にやっていることなのだから、文句を言われる覚えはないわね。
そうこうしているとどんどん有利になっていくわ。エジソンの知名度は凄いけれど、私が蓄音機でやりこめた話も広がっているから、「テスラ相手には分が悪いだろう」と思う者も多いようね。
ここまでやれば、普通の相手は諦めるはずだけど、相手は何せ世紀の根性論者エジソン。
諦めるということを知らない男よ。
どんな粗を探し出すか分からないから、私も徹底的に打ちのめす必要があるわね。
私は事業主のウェスティングハウスを説得して、既に交流電気で契約しているところに値下げをもちかけたわ。「代わりに万一エジソンのところに乗り移るなら、たんまり違約金を払ってちょうだい」と。
彼らも私達が圧倒的に有利だということは分かっているのだし、値下げは万々歳よ。自分達がエジソンに寝返らなければいいのだから、違約金は考えなくていいものだからね。
私はその契約書をエジソンと、直流電気で契約した地域に送り付けたわ。
そうでなくても高コストなうえに、エジソンは交流地域を寝返らせるために莫大な違約金を払う必要が出てきたわ。
莫大の資金を用意できれば、エジソンの逆転勝ちもあるけれど、その場合、私達は残りの人生は安泰。エジソンが出した違約金で過ごせばいいのだから楽なものよ。
とうとうエジソンも観念して、負けを認めたわ。
私の完全勝利ね。
「なあ、テスラ君」
おっと、まだ完全勝利ではなかったわ。
事業主のウェスティングハウスは、工事のための投資額がかさんで一時的に赤字になったの。だから、テスラに払う権利料を安くしたいと言い出したのね。この時何故か知らないけど、テスラは権利を放棄しちゃったのよ。
その後、テスラが金に苦しくなって、ウェスティングハウスに「以前、譲ってあげたのでちょっと金を融通してくださいよ」と頼んだ時、ウェスティングハウスは完全に無視してしまったの。結果、テスラは晩年金欠に悩まされたというわ。
さて、どうしたものか。
「……まあいいわ。貴方のおかげで勝てたのだし、権利は譲ってあげる。ただ、私が金に困ったときは助けてもらうわよ」
こう約束して、数年後にウェスティングハウスを訪れたの。
「あの時の約束はちょっとやりすぎたわ。一部でいいから支払ってもらえないかしら?」
「ハハハハ、何を甘っちょろいことを言っているんだね、君は。放棄した以上、君にはビタ一文支払わないよ」
「そう。なら、これを全マスコミに送るだけね」
私はハイパー蓄音機に以前の約束と、今回の恩知らずな発言を録音させておいたの。それをおおっぴらにして、ウェスティングハウスのイメージを墜落させたのよ。
私?
私は鉄鋼王と呼ばれたアンドリュー・カーネギーと石油王ジョン・ロックフェラーと仲良くなったわ。彼らの本は普通に売っているから、後々何が起こるか理解しているからね。頼りになる預言者だとして投資してもらったのよ。
最初からそうしておけば楽だったんじゃないの、って?
それじゃ面白くないじゃない。
"女神の総括"
『むかつく! にいいちぇはあれだけ好き放題しているくせに動物達が「千瑛さんに救われました」って感謝しているのがむかつく!』
「……女神のくせに心が狭いわね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます