第112話 ニコラ・テスラに転生しました・中編
ニコラ・テスラは今でも生地のクロアチア、属していたセルビアで尊敬されているわ。
それは結構なことなのだけれど、この地で生まれてしまうと、故郷にいたままではどうにもならないのよね。ヨシップ・ティトーのみが例外で、ノヴァク・ジョコヴィッチ(テニス)やニコラ・ヨキッチ(バスケット)といった世界最強アスリートも他所に出て証明しないといけないのよ。
テスラも例外ではないわね。
元々、故郷でもそれほど恵まれていないから、どれだけ天才でも学費が続かないのよ。
奨学金?
バルカンはヨーロッパの火薬庫よ。
誰が火薬庫にお金を保管するというの?
ということで、私は東欧を行き来することになるわ。
本来ならば体裁があがらないままアメリカに行くことになるのだけれど……。
「アメリカのエジソンという発明家の蓄音機をスーパー改造してみたわ。これで音楽の演奏が一般的になるわよ」
「素晴らしい! 是非とも我がグラーツ大学で研究を」
「興味がないわね」
個人的な成功を極めるなら、適当に妥協して富貴を極めることもできるけれど、私はエジソンに痛めつけられた動物達の無念を晴らすために転生したのだから、エジソンに勝たないといけないわ。
だから、史実よりちょっと儲けて人生楽しみつつ、なぞることにするのよ。
東欧を渡り歩きつつ、金を稼いでアメリカに渡ることにしたわ。
史実通りにエジソンのところに行くわよ。
「この紹介状にある通り、世界には二人の天才がいるわ。一人はエジソンさんで、もう一人は私よ」
「そ、そうなんだ……」
どうやら、掴みは失敗したみたいね。
とはいえ、私の仕事は確実よ。
というより、エジソンの仕事ぶりは非効率このうえないわ。
「天才とは1パーセントのひらめきと99パーセントの努力だ」
この理論は何故か現代でももてはやされているけれど、実はブラック企業精神の権化でもあるのよね。
要はとりあえず努力しておけば、そのうち1パーセントくらいついてくるぞということでもあるのだからね。
ただ、この時代に関してはこうした倫理については何とも言えないのも事実だわ。
動物虐待にしても、そうよ。エジソンはやりすぎて叩かれたけど、この時代、特にどうということはなかったものね。
少なくとも、現代ではエジソンの価値観は通じないものなのよ。
問題は、今でもエジソンの論理をそのままもてはやす面々がいるということね。
話がそれたわね。
しばらくすると、問題の事件に遭遇することになったわ。
エジソンは直流で電流を流すことには成功したけれど、交流では成功させることができなかったのよね。
私はそれに自信があったから、「できる」と言ったところ。
「それなら、おまえが成功したなら5万ドルやろうじゃないか」
と言われたのよ。
「……念のためもう一度言ってもらえるかしら? まず日時から」
「?」
「この工場のシステムを交流にしたら5万ドルね。確認できたわ」
私はすぐに研究を始めて交流システムを成功させたのだけど、そうしたらエジソンときたら。
「あれは冗談だった。5万ドルも含めてな。ガッハッハ」
とか言い出したのね。
史実では、これで対立して、後々まで遺恨を抱えることになったわ。
でも、私はそうした愚を犯すことはないわ。
「……エジソンさん、これを聞いてもらえるかしら?」
『今日は1885年の10月16日だ。私、トーマス・アルバ・エジソンはニコラ・テスラに約束するぞ~』
と、彼にハイパー蓄音機の音源を聞かせたのよ。
「こ、これは……?」
「5万ドルを冗談だと言い張るのなら、これをアメリカ中で流すだけよ。エジソンは自ら発明した蓄音機に約束を吹き込みながら、守る気がないと。つまり、『自分の発明した蓄音機は冗談みたいなものだ』と思っているのだ、と」
「ま、待て!」
「5万ドル」
「く、くぅぅ……。この野郎……」
こうして私は5万ドルをエジソンからゲットしたわ。
「あと、もう一つ言っておくわ。真の天才とは10パーセントの閃きを含めた才能と20パーセントの努力、30パーセントの臆病さ、40パーセントの運から成り立つものよ。走り回ること自体を否定しないけど、ほとんどない方針のために走り回ることを美化することは認められないわ。私は貴方を痛めつけるほど暇ではないけど、無暗に私に敵対するのなら、それ相応の報いが待ち受けていることを理解しておきなさい」
こう言い残して、私はエジソンの会社を後にしたわ。
そのまま、ウェスティングハウスと契約して、交流電源を含めた諸発明に専念したのよ。
"女神の一言"
『何で天才の定義がゴルゴやねん……』
「発明を無闇に発表すると予期せぬ問題を抱えるので、臆病に構えるのも必要ということなのでしょうか?」
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