第111話 発明王を叩きのめせ ~ ニコラ・テスラに転生しました・前編

 私の名前は新居千瑛。


 この世界と世界の狭間を漂う幽霊よ。


 日々、楽しいことがないかさまよい続けているの。


 今回は、アメリカにやってきたわ。


 エジソンの像があるわね。さすがに世界の発明王。たいした威厳だわ。

 あら?

 銅像の近くで抗議のプラカードを持っている犬や猫の霊がいるわね。何をしているのかしら?

「貴方達、何をしているの? ふむ、ふむふむ。なるほど。そういえばそういう話もあったわね……」


 彼らは、かつてエジソンが起こした電流戦争で生体実験の被害に遭った動物達だったのね。


 エジソンは偉大な発明家だけど、この一件に関してはしくじったとしか言いようがないわ。発明のために欠かせない犠牲だったならまだしも、単なる利権争いだものね。

「何々、自分達を感電死させた男が、世界の発明王として君臨しているのは許せない。そうでない世界を見たいと成仏できない? 分かったわ。私が貴方達の仇を取ってあげる」


 ……と気軽に約束しちゃったけど、考えてみればエジソンは近代なのよね。

 この話のタイトル『リアル中世』には反するわ。


 まあ、いいでしょう。

 私は常識なんて気にしないわ。

 面白いことをやる。やりたいことをやる。

 それが、この私、新居千瑛の霊としての在り方よ。


 電流戦争でエジソンに目に物を見せる以上、私はニコラ・テスラに転生するしかないわね。彼は才能ほどの成功を得なかったから、その辺りも成功させてみせようかしら。



 天界にやってきたわ。

 女神の寝室に入るわよ。布団を豪快に蹴っ飛ばしているわね、子供のようだわ。

「起きなさい」

『むにゃむにゃ。何なの……って、あんたはににいちぇ!?』

「にいいちえよ。私はニコラ・テスラに転生することにしたわ。手配しなさい」

『いきなり現れて勝手なことを言うなー!』

「……そう。また始末書を書かされるのは気の毒だと思ったから、了承を貰いに来たんだけど、そういう態度なら仕方ないわ。今回もハイジャックして19世紀に行くまでよ」

『ちょ、ちょっと待ったぁ!』

「何なのよ。騒々しい」

『何でニコラ・テスラに転生するのよ? 最近Ⅹ方面で話題のイーロン・マスクに原点を見せてやるつもりなの?』

「生憎、私は現世を生きている人には興味がないわ。全くの別件よ。とにかく転生するのだからさっさと特別機を用意しなさい」

『全く……近代方面は、私の担当じゃないのに』

「近代担当になりたいのなら、天界のマザーコンピュタータをハッキングして書き換えることは簡単よ。この前忍び込んだもの」

『そんなところに忍び込むなぁ! あと、近代や現代はめちゃくちゃ忙しいから嫌!』

「とにかく、早く手配しなさい」

『全く……私は女神なのに、何で幽霊にこき使われないといけないのよ。最近はみんな、私を軽んじているとしか思えないわ』


 騒々しい女神を焚きつけて、19世紀のセルビアに転生したわ。

 さて、発明王に一泡吹かせてきましょうか。

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