第107話 陳硯真に転生しました・後編

 653年、遂にワタクシは計画を実行に移しました。


「ワタクシは李建成様から後事を託されましたわ! ここに建成様の密勅があります!」


 色々考えた末に、李建成は「自分を殺そうとした李世民とその息子達に正義はない。唐を倒して、正統な血筋に戻さなければならない」と言っていることにしましたわ。それを任されたのがワタクシということです。


 少し考えれば「何で唐の皇太子がおまえに頼むねん」とか「玄武門の変から今まで何年経ってんの?」いう話になりますが、陰謀論なんて言ったもの勝ちですわ。

 そう、陰謀論は言ったもの勝ち!

 しかも、話を大きくすればするほど、いいのですわ!

 カルトはひたすら話を大きくして、儲けていくのです!

 ワタクシはこの資金をもって要塞を築き上げ、三年は防御してみせますわよ!


 そうして、ついでに語られるのではなく、堂々と『陳硯真は唐で大反乱を起こして、皇帝を名乗った。最初の女帝である』と記載させてみせるのですわ!


 しかし。

「陛下、陛下! 大変です!」

 反乱宣言から十日後、部下が駆けて参りました。

「長安からの宣言で、三十万の唐軍が駆けつけてくるということです!」

「三十万? 冗談はよしてくださいな。地方の反乱にいきなりそんな大軍を出す力など唐にはありませんわ」

 ワタクシは取り合いませんでしたが、その後も続々と「唐が持ちうる力全てを注いでこちらに向かっている」という情報が届きます。

 敵の総大将は李勣りせき、当代最高の名将です。


 な、何故ですの?

 何故ここまで用意周到ですの?

 どうしていきなりそこまでの軍勢を差し向けてくるのです?


 一か月もしないうちに杭州には五十万の唐軍が集まりました。彼らが一個ずつ土嚢を積み上げるだけで、無敵のはずの城壁はなだらかな坂道になってしまい、唐軍がなだれ込んできます。

 いつの時代にしても、反乱軍やらゲリラ軍は面倒がって手抜きした正規軍に勝利して名を上げていき、勢力を増していくものです。

 最初から正規軍が全力では勝ち目がありません。


「な、何故ここまで兵を出してまいりますの?」

 あっという間に捕まったワタクシは李勣に問いかけました。

「武昭儀(武照が皇后になる前の呼び方)様が『この反乱は危険な匂いがするから徹底的に鎮圧すべきだ』と具申して、全力で討伐することが決まったのだ」


 アイヤー!


 ワタクシは相手を間違えておりましたわ。

 反乱を起こした653年、太宗は既に死んでおります。

 ワタクシは高宗を相手に反乱を起こしたつもりでしたが、彼の隣には武照がいたのですわ。

 高宗の治世においては、彼女が重要事に関与していたのですわ。


『この反乱は発生経緯を見るに危ない案件だね。こっちはボクがやるから、陛下は馬小屋の修繕をやってもらえるかな?』

「うむ、武照よ。馬小屋のことは任せておけ。朕はおまえを頼りにしているぞ」

『陛下、頑張ってねー。さて、この反乱の指導者は中々考えたみたいだけど、ボクをどこまで楽しませてくれるかな?』


 きっと、このようなやり取りがあったに違いありませんわ。


 くぅぅ、計画が十分過ぎてもダメでしたのね。

 もう少し杜撰さも混ぜて、相手に「この程度の反乱なら三か月で鎮圧できるだろう」と思わせるべきでしたわ。

「武昭儀様は『この女は大した奴だよ。全てを忘れて、ボクに全身全霊をもって奉仕すると約束したのなら生かして連れ帰ってくるように』と言っていた。どうする?」

「何を奉仕させられるか知れたものではありませんわ。ここで死ぬことといたします」

「良かろう。そのための剣も預かってきた」

 用意が良すぎますわ。

 


 ズドンという音とともに剣が振り下ろされました。



"女神の総括"

『史実の三分の一、一か月で鎮圧されたわね……』

「そういう茶々は実際に三年持ちこたえた実績を見せてから言ってもらえませんこと? 武照が相手ならば、ダ女神など三日で粉砕されること請け合いですわ」

『ぐっ!』

「そろそろマンネリ化も進みそうですし、変な新キャラが出るよりは女神が転生して大失敗した方がいいように思えてきましたわ」

『やめて! 武則天にはマジで勝てないから! それだけはやめてちょうだい!』

「な、情けない女神ですわ……」

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