第104話 ヤン・ソビエスキに転生しました・後編

 議会が強いというと現代国家のイメージがあるが、この時代のポーランド・リトアニアも負けてはいない。

 成立条件が全会一致なうえに、個々の貴族に自由拒否権という特権があるから、まとまるものもまとまらなくなる。


 対外活動は基本負担が大きい。負担の大きいことはやりたくない。

 だから、ポーランド・リトアニアでこちらから仕掛ける対外戦争が可決される見込みはない。


 ポーランド・リトアニアは強い国だったし、ジュウキェフスキ、コニェツポルスキ、俺と欧州屈指の名将と呼ばれるような存在も多数擁しているのだが、この強すぎる議会のために拡大要因を阻まれてしまったとも言える。


 そんな中で、俺はロシアやオスマン相手に喧嘩を売りまくった。

 これにより、東側の敵対心が猛烈に高まり、貴族たちは不安になる。

 こうした経過の中で、俺は国王に選任された。支持率もまあまあだ。


 それでも対外戦争ができるかというとまた別だ。

 協力は皆無。議会の名前はセイム。

 見込みは0だ。


 チャンスは一度だけだ。

 史実でも俺が華々しい戦績をあげたウィーン包囲を利用するしかない。

 そこに至るまでの方針も変換する必要がある。


 史実のポーランド・リトアニアはフランスが大好きだ。

 カトリックの先輩だし、一応シャルルマーニュの国だしということがあるのだろう。

 何を隠そう、この俺も史実ではフランス寄りの立場だった。フランスに立って、オーストリアを叩こうとした。


 この考えの問題は、『俺達がフランスを好きな程、フランスは俺達を好きではなかった』ということだ。

 フランスは具体的な協力を何もしない。

 三十年戦争でもそうだ。スウェーデンをギリギリまで矢面に立たせて、スウェーデンではダメだというところまで来てようやく出てきた。

 今も、フランスはギリギリまで出てくるつもりがない。

 

 なので、俺はフランスを諦めることにした。

 俺は、ハプスブルク家と、オーストリアと組む。


 俺はハプスブルクとの関係を改善し、対オスマンで協力できるようにしておいた。

 そのうえで、オスマン大宰相カラ・ムスタファ・パシャが攻めてくるのを待つ。


 史実通り、オスマンは兵を出した。

 ウィーンまで瞬く間に攻めていき、包囲を開始する。


 ヨーロッパ全土に十字軍の機運が巻き起こる。

 指揮官として任命されたのは俺だ。

 信仰の保持者という名目があっては、議会も認めるしかない。

 俺は予算を要求した。

「えっ、こんなに?」

 議会は額に驚いて抵抗したが。

「お前たちは信仰のためとか言いつつどうでもいい壺に多額の出費をしているだろう!? 今は信仰の真の危機だ! このくらいの予算も出せないというのか!?」

 と力説して、飲み込ませることに成功した。


 1683年、ウィーン郊外カーレンベルク。

「突撃だぁ!」

 俺の号令一下、フサリア騎兵がオスマン軍になだれ込む。

 繰り返しになるが、この時代、まだ銃器の命中性能は高くない。

 フサリアが雪崩を打って攻め込んでいくと、銃兵は逃げるしかない。攻め込んでいる側のオスマンが防御陣地を作っているはずもないからな。


 戦闘は完勝した。

 俺は信仰の守護者、偉大なる指揮官としての名声を確立した。

 しかし、浮かれていてはいけない。史実のヤンはこのとき浮かれてしまって、ちやほやされるだけに終わった。時間をかけて教皇の祝福を受けたりしているうちに、ポーランドとして成果を得ることができなかった。

 何年か経ってからそのことに気づき、必死に取り戻そうとして空回りし、失意の晩年を過ごしてしまったわけだ。


 成功した時こそ用心しろ。


 俺は、息子を代理として残して、フサリア騎兵を東に回した。

「南から迫る信仰の危機は回避した! 次は東からの危機だ!」


 この前年、ロシアではピョートル1世が即位している。後に大帝と呼ばれるようになる奴だ。

 奴が大帝となれたのは、ポーランドが大人しくしていて危機が少なかったからだ。

 だから、奴はヨーロッパに留学することができた。


 今回はそんなことはさせん!

「ピョートルの即位は無効だ! カトリックの守護者である俺がそう決めたからだ!」

「ウオオオオォ!」

 議会は反対したが、すでにロシア遠征分の予算も確保している。

 ウィーン包囲を打ち破ったフサリア騎兵は宗教的熱情に燃え、俺についてきた。


 俺がロシアに攻め込むと、貪狼なスウェーデンもついてきた。

 揃ってモスクワまで攻め込み、ピョートルを追放してスウェーデンと共同統治することにした。正直、俺もそうだがスウェーデンもロシア支配には自信がない。だから、両方でうまいことやろうというわけだ。

 ま、数十年もすれば破られるだろうが、ピョートルの改革を止められたのは大きい。


 次の狙いはオスマンということになる。

 黒海北岸を全てゲットすることができるかどうかくらいが、この時代の限界だろうか。


 この後のポーランドがどうなるかは分からないが、18世紀にロシアとオーストリアの主導でポーランドが地図から消える、ということはないのではないか。



“女神の総括”

『まさに戦いの生涯だったわね』

「全くだ。ただ、弾道学が進んでしまうと、フサリアは使い物にならなくなるから、それまで使い倒してしまうべきだったからな。問題は......」

「使い倒していたというのが分からず、テンセイの死後もフサリアばかり強化していたのは痛かったわね。あと、史実では国王になれなかった息子が次の国王になったのも結果的には失敗ね。あんたの業績がでかすぎて国王になれたまでは良かったけど』

「あれだけ稼いだマージンをすぐに使い果たすとはなぁ。俺が必死になりすぎて、息子の教育を怠ったという問題もあったが」

『あとは、ピョートルを追放したのにエリザヴェータが本気出して改革してしまったのも誤算かしら?』

「結局、現代もそうだが、ロシアまるまる支配したいなんて、ロシア以外の連中は思わないからなぁ。結局ポーランド分割は実現してしまった......。時代が違うが、ソビエスキとナポレオンがタッグ組むくらいじゃないロシア支配は不可能だわ」

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