第98話 ジャンヌ・ダルクに転生しました・後編
「ということで、ジャンヌ。貴女は尋常でない方向に進んでしまったから、まともな生き方は出来ないのよ」
「しくしくしく……。カタギは無理ということですね」
「そう。国家に近づくと陰謀と処刑が待っているわ。と言って、民間で暮らしてもやはり陥れられるわね。その状況で考える限り、一番望みを抱ける仕事は……」
「望みを抱ける仕事は?」
「……傭兵隊長ね。ジャンヌ・ダルクというブランドを活かして傭兵を集めて、戦場で戦い続けるのよ」
「傭兵隊長ですか。何だかカッコ良さそうですね」
「そうよ。テレビカメラの前で『ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ!?』ってダミ声で叫ぶの」
「……ひぇぇぇ、カッコ良くないです! しかも、撃墜死してしまったじゃないですか!」
そう。
この話、8月20日くらいから作っていたけれど、その時点ではもちろん近々に死ぬとは思っていなかったから、かなり変更を余儀なくされたわ。
プリゴジンの命運はクーデターを起こした時点で終わっていたと思うけれど、彼の運命は世界史で一番有名な傭兵隊長アルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインと非常に似通っていて、最期までほぼ同じになってしまったわ。
傭兵隊長という立場の難しさを改めて浮き彫りにした、と言えるわね。
傭兵隊長の最大の問題というのは、言うまでもなく傭兵を抱え続けることよ。いつ何時でも給料を払えるか、それに尽きるわね。
当たり前のことを言っているように思われるだろうけれど、戦争はいつも行われているわけではないわ。非戦時には収入がなくなってしまうのよ。また、戦争が行われていても、膠着状態に陥ると収入が途絶えてしまうわ。相手から奪い取るということができなくなってしまうからね。
だからといって、解散したり、数を減らしてしまうと傭兵隊長の存在意義がなくなるし、国家に
傭兵隊長が傭兵隊長としていつづけるのは非常に難しいのよ。
非戦中でも給与を払うために、国家にあれこれ要求して不信を買ってしまい、結果的に抹殺されたのがプリゴジンとヴァレンシュタインよ。
プリゴジンはみんな知っているでしょ。
ヴァレンシュタインは三十年戦争で旧教側についていた傭兵隊長だけど、グスタフ・アドルフを討ち取る殊勲をあげたのね。だけど、ここから「自分がいるから帝国があるのだ」というような態度を示して、色々要求しだして疑念を買ったのよ。
内部を掌握しているつもりで裏切り者がいて筒抜けだったぽい最期も含めて、この両者は死まで似通ってしまったわ。
そこに近づいたけど、決定的な決裂になる前に死んでしまったのが、これまた三十年戦争に出て来るベルンハルト・フォン・ザクセン=ワイマールとヨアン・バネールの二人ね。
ただ、後者はほぼ病死だけど、前者はフランス、スウェーデン、神聖ローマ帝国、ドイツ諸国を天秤にかけていたから、暗殺説もあるみたい。
逆に、特権を要求しないまま破産してしまったのがスペインのアンブロジオ・スピノラね。戦場にかじりついて破産するまでいついてしまうこのタイプも多かったみたい。
ちなみにスペインは国家として破産しまくっていたけど、ずっと戦争していて不思議に思ったことはないかしら?
あれは王家は破産したけど、金を持っている貴族に「一任する」と戦争を任せて、彼らの資金で戦わせていたというのもあったの。スピノラはその典型ね。
有名なアルマダ海戦の時にも、最初はサンタ・クルス侯に、幸か不幸かサンタ・クルス侯が病死した後は、メディナ・シドニア公に任せていたのよ。
メディナ・シドニアは無能だと言われることもあるわ。そんな彼がどうして指揮官だったのか?
軍費を出せるのが彼しかいなかったからなのよ。
傭兵隊長であり続ける、ということはこのように非常に難しいことなのよ。
「……傭兵隊長でうまく行った人っていないんですか?」
「小規模な部隊で運用している現代の民間会社や、小金を貯めた時点で解散した人などはともかく、大物で財政難の心配がなかった者はいなかったでしょうね。例外をあげるなら……」
地域ぐるみでやっているところは、地盤があるので残りやすいわね。
スイス傭兵とか雑賀衆よ。
とはいえ、ジャンヌには拠るべき地域がないから、これは不可能ね。
「じゃあ、傭兵隊長になっても、ダメじゃないですか!」
「……そうかもしれないわ。この世界でジャンヌが普通の形で生き残る確率をAIに計算させたところ、0.02%と出たわ」
「ガーン! ほぼ0じゃないですか!」
「……まあ、完全な0ではないわ。残りの1話でやってみましょう」
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