第96話 何が成功なのか~ジャンヌ・ダルクに転生しました・前編
私の名前は新居千瑛。
この世界と世界の狭間をさまよう幽霊よ。
日々、面白いことがないか、飛び回っているの。
今回、ネット回線に乗って、フランスまで来てみたわ。
ネット、幽霊にとって本当にいい移動手段ができたものよね。
だけど、着いてみたらパリでは暴動が起きているみたいね。
みんな元気があっていいことだけど、騒々しいわ。
あら、そんな暴動を心配そうに見ている女の幽霊がいるわね。
幽霊なのに随分と重々しい恰好をしているわ。プレートメイルとか身に着けてコスプレみたい。幽霊には重量はないし、何を着ても自由なんだけど、目立つことこの上ないわ。
とりあえず挨拶してみましょうか。
「こんにちは。どうかしたの?」
「あ、こんにちは……。パリで幽霊を見るなんて珍しいです」
「パリはロンドンほど幽霊がいないものね。それより貴女、随分古い恰好をしているわね。まるで中世のジャンヌ・ダルクのようよ」
「あ、実は、私、ジャンヌ・ダルクの幽霊なんです」
「……あら、それはさすがの私もびっくりだわ。何をしているの?」
「おかげさまで最近、色々なところで取り上げられるようになったんですけれど、何だか色々なことをやりすぎていて、私って結局何だったのか分からなくなってきたんです」
「ふむ……」
確かにジャンヌ・ダルクは有名だけど、この人って結局何だったの?感も強いわね。
オルレアンを解放したのは素晴らしいけど、いなくても解放できた可能性もあるしその後もどういう方針で動いていたのかイマイチ分からないわ。で、色々な政治の綾に絡まって処刑されたという経緯も不透明だし……。
本人は所詮農民の娘と言っては失礼だけど、知識などには限界がある。だから、本人が何のために活動していたのか分からないというのも無理からぬところだわ。
彼女の人生を私の手で解明するのも面白そうね。
とはいえ、天界は私を出禁にしてしまっているのよね。
転生したいと言ってもさせてくれる見込みはゼロ。
果たしてどうしたものかしら……
いいわ。こうしましょう。
私はジャンヌの幽霊と共に、天界の転生空港にやってきたわ。
今、フランス方面への転生航空機が離陸したわね。
「あそこに行くわよ」
「は、はい」
私はコックピットに入り込み、機長と副操縦士のハードディスクから取り出したものを見せて交渉することにしたわ。
「これを世間にばらまかれたくなければ、この機を操縦させなさい」
「ひぃぃぃ。どうしてそれを?」
ネットが繋がっていれば、コンピューターに入り込むことなど私には朝飯前よ。
二人をコックピットから追い出すのは簡単だったわ。
さて、次は管制塔に伝える番ね。
「管制官、こちらFR18」
『こちら管制官。FR18、何かありましたか?』
「こちらFR18。たった今、この機は私、新居千瑛が乗っ取ったわ。15世紀に行くことにしたからよろしく」
『どえぇぇぇ!?』
驚天動地な声が響いて、しばらくバタバタしているわね。
やがて聞きなれた声が聞こえてきたわ。
『こらー! にいいちえ! 何てことをしてくれるのよ! 一体何が望みなの!?』
「私はジャンヌ・ダルクに転生することにしたわ。本人の霊も了承済よ」
『あんたはともかく、そこには18世紀に転生予定の152人も乗っているのよ! 彼らまであんたの都合に付き合わせるんじゃない! 戻ってきなさい!』
相変わらず騒々しい自称女神ね。
「大丈夫よ。フランスについたら、私が適当な人に皆を転生させておくわ。18世紀にはもう一機送りなさい。通信を切るわね」
『こら、待ちなさい! 待つのよ……ブツッ』
さて、15世紀フランスが私達を待っているわ。
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