第89話 鄭和に転生しました・後編
今更言うことじゃないかもしれないけど、実はアタシ、鄭和の率いる軍船は無敵なのヨ♪
群れを率いるには宦官が最適。
もちろん、世界史を紐解くと訓練されていない宦官が多いから、あまり実績はないのだけど、鍛えられた宦官がことごとく強いということは以前の裁判記録からも分かるでしょ♪
アタシの軍は各国と平和裏に交渉をし「永楽帝に挨拶に来なさいネ」という形で話をつけていったわ。
ただ、たまにいる生意気な奴らには目にモノを見せてやったノ。頭の悪いヤツには誰が上に立つべきか、きちんと教育してあげないといけないからネ。
二回目の人生だし、今回は最初三回の遠征で七回分の目的を達成できたワ。
だからここからは、宦官のための理想郷も作ることにするノ♡
アタシ、天界で暮らしているうちにいいところを見つけたの。
エジプト東部にシナイ半島ってあるでしょ。ここのシャルム・エル・シェイクに拠点を設けることにしたのヨ。
紅海に面していて、現代ではリゾート地になっていると・こ・ろ。
紅海からアフリカ東海岸やインド洋にはすぐ行ける便利なところだわ。それでいて、この時代にはほとんど誰も住んでいないから、開発がしやすいのヨ。
いわゆる流行りの領地経営というやつネ。
場所に間違いないから、必ずうまくいくワ。
四回目の航海で、ここまでたどり着いて、まずは基礎的な街づくりを始めたワ。
五回目には宦官を連れていって、生活するように指示をしたワ。
この時にアフリカで沢山の珍獣をもらって中国に帰ったのヨ。特にキリンは中国の伝説の霊獣麒麟にも通じるので皇帝からは大喜びされたワン♪
六回目にも更に宦官を連れていって、シャルム・エル・シェイクに入植させたのヨン。もちろん、宦官だけだと人口が増えることがないから、周辺の男女も連れてきたワ。
仕掛は上々。
あとは普通の男を宦官にするための技術者が必要ネ。
近くにはアフリカもあるし、トルコから宦官を買うこともできるのだけど、イスラムの手術は危険性が高いのヨ。当時にして、死亡率が半分弱。優れた技師でも三分の一は死んだと言うワ。
宦官にする技術は中国の方が若干安全性は高かったのヨ。
だから、中国から技師を呼んできたいのよネ。
えっ、そこまで危険なのに、どうして宦官にするのかって?
一度、戦争になってごらんなさい。死者の数なんて手術の比ではないワ。
そ・し・て、何度も言っているけれども、群れの調整には宦官が必要なノ。
これは人類の英知なのヨ。
それはさておき、七回目の遠征では、アタシも体力がきつくて遠くまではいけなかったのだけど、シャルム・エル・シェイクには部下に手紙を託して向かわせることにしたノ。
戻ってきた彼らの報告によると、非常にうまく行っているみたいネ。
宦官が建国した国というのは、ペルシアのガージャール朝しかないの。
だけど、ここまで説明したら分かってもらえると思うけど、群れの調整者たる宦官が建国するというのが、本来あるべき姿なのヨ。
それがままならないから、人間の歴史は戦争の歴史になったわけなのネ。
ちなみに、アタシの死後、大航海計画は明が内向きになっていくことでなくなっていくワ。
それが決まる前に人生が終わるというのは、アタシにとっては幸いとも言えるのかもしれないわネ。
それに今回、アタシは宦官の理想郷を作ることができたと思うノ。
これが世界史にどう影響するか、とても楽しみネ。
あぁ、迎えが来たようだワ……。
"女神の総括"
『何でこんな滅茶苦茶な考え方なのに、ここまで有能なのかしらねぇ、あんたは……』
「ふふん、惚れ直した? やっぱりアタシが世界史最強の宦官だと思いなおした?」
『惚れとらんし、世界史最強とも思っていないから』
「惚れた相手が同性でしたって話はよくあるけど、惚れた相手が宦官でしたって話はないのかしらネ?」
『知らんわ。ちなみに、あんたがシャルム・エル・シェイクに作った宦官の理想郷だけど』
「どうなったのかしらん?」
『あんたというカリスマがいなくなったから、内紛であっさり自滅したわ』
「アッラ~、ガッカリーな結果になったのね。イスラムだけに」
『やめんかい』
「男や女の群れを鎮静化させるのに宦官は有益だけど、宦官も群れてしまうとダメだったということね。生き物って難しいワ~」
"千瑛ちゃんの余計な独り言"
『女神への呼び方は以下の通りよ』
天成:女神
郁子:駄女神
私(千瑛):自称女神
鄭和:女神さん
『実は、鄭和が一番リスペクトしているようね。どうでもいいことだけど』
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