第88話 鄭和に転生しました・中編

 ということで、アタシはアタシの人生をやり直すことになったワ。


 天界では宦官復権運動を頑張っているアタシだけど、実は最初は宦官じゃなかったのヨ。


※女神『当たり前だ』


 モンゴルが中国にげんを建てて、その元が末期を迎えた頃にアタシは生まれたんだけどぉ、アタシの家族は元のために戦っていたのよネ。

 で、元がみんに負けると、子供だったアタシは捕まって、宦官にされてしまったっていうわけ。

 ……と考えたら、実質生まれながらの宦官みたいなものネ♪


※女神『何でやねん』


 二度目の人生だから、逃げようと思えば簡単に逃げられるワ。

 でも、アタシは逃げない。

 アタシはより大きな夢を求めて、この世界に舞い戻ってきたのヨ。

 宦官のための理想の国を創る、という。


※女神『えっ? そんなこと全然聞いてないんだけど……』


 アタシは後に永楽帝となる朱棣様に仕えて、頑張って功績を立てたワ。

 だから、朱棣様が永楽帝として即位すると、宦官のトップである太監に任命されたのヨ。


 ところで、永楽帝はお父さんにして明を建国した太祖洪武帝の四男だったノ。

 で、二代皇帝は洪武帝の長男の長男である建文帝だったのヨネ。

 だから、本筋では建文帝が嫡出筋で、永楽帝はお呼びじゃなかったんだけど、反乱を起こして帝位を分捕ったのヨ。


 これぞ乱世よネ、ロマンよネ。


 だけど、永楽帝は気にシイだったから、陰口を恐れたのネ。

「あいつ、甥をぶっ殺して、力で皇帝になりやがった」って言われることを恐れていたわけ。

 だから、噂が広まるより早く世界中に「永楽帝っていう凄い皇帝が中国にいるんだよ」って広めようとしたノ♪

 そのためにアタシが出向くことになって、船で海外に行くことになったのヨ。


 ちなみにぃ、世界で最初に永楽帝を認めたのは、日本の足利義満あしかが よしみつだったノ。

 だから、永楽帝は「日本が俺を皇帝として認めてくれた。超ハッピー♪」って喜んで、後々まで義満のことは気に掛けていたって話ヨ。


 今回の遠征計画に日本は入っていないワ。既に認めてくれているからネ。

 本当は倭寇わこうが時々だけど暴れていて、倭寇をぶっ倒すという理由はあるんだけど、永楽帝は「(俺を皇帝だと認めてくれた)義満が倭寇を征伐するって言っているから、彼に任せよう」と義満の顔を立てたわけヨ。


 もし、義満がいなくて最初から義持よしもちみたいな生意気なのが将軍だったら、日本にも遠征していたかもネ♪



 ……あら~ん、話がずれちゃったぁ~、アタシってばお喋り~♡


 話を元に戻すと、永楽帝は自己ピーアールのために遠征をすることにしたの。

 アタシが海軍を指揮して、陸地も北、南、西と派遣したのよね。その指揮官は全員宦官ヨ♪


 陛下が宦官のことを理解していたのなら嬉しいんだけど、残念ながらそうではないワ。要は男達は建文帝の方についたのよネ。永楽帝に従った男はそんなに多くなかったノ。姚広孝よう こうこうのように朝廷で活躍させる連中を確保するのが精いっぱいで、頼れる男がいなくなったのヨ。だから宦官が活躍したわけネ。


 でも、結果的にこれは正解だったワ。


 もし、男をリーダーにしてみなさい。

 全部自分のものにしなければ気が済まないから、行ったところで略奪の嵐ヨ。

 後々ヨーロッパの連中が好き勝手やったわよね♪ それと比較して「鄭和は蛮行はなかったし偉かった」って言われる向きもあるわ。

 でも、あれは西洋と東洋の価値観の違いじゃないノ。

 男と宦官の違いなのヨ。

 もし、今回の遠征指揮官が男だったなら、それはもう身の毛もよだつようなことが行われていたに違いないわ。


 だって、甥をぶっ殺して帝位についた永楽帝の部下なのよ?

 途中で永楽帝は亡くなって、宣統帝せんとうていに変わったけれど、その宣統帝は叔父をぶっ殺して帝位を確定させているのヨ。


 明も乱暴な連中が多いのヨ。

 東洋だから平和だったというのは妄想に過ぎないワネ。


 アタシという偉大な宦官がいたから成り立ったのヨ。


 分かってもらえたかしら?


 宦官は群れを鎮静化させる存在なノ。こういう仕事に適任なのヨ♪



"女神の(どうしても主張したい)一言"

『以上の話は、あくまで鄭和の勝手な妄想であって、真理ではないですからね!』

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