第95話 袁崇煥に転生しました・後編
子細は省くが、吾輩の軍はヌルハチを撃破することには成功した。
どうやら、ヌルハチは重傷を負ったようで程なく死去したという。
これは快挙だ!
だが、これを素直に祝ってもらえないのが今の明だ。
前よりも後ろの敵の方が恐ろしい。
後ろの動きは早かった。
「総督! 大変です」
「どうした?」
「皇帝陛下が、遼東軍が北京からの資金を横領しているのではないかと疑っているようです!」
「何と!?」
おのれ、皇帝め! 猜疑心の強い男と聞いていたが、もう疑ってきたか!
「いや、でも、あれだけ大砲を買いこめば、誰でも横領か謀反を疑うと思うのですが……」
むう……。
確かに吾輩の軍は、装備を買い過ぎてしまった。
戦闘に勝つためには装備が必要だが、これだけ買いすぎると反乱に使う気ではないかと疑われるかもしれん。そうなったら一巻の終わりだ。
しかも、反乱については無罪としても、軍費を使い過ぎたと文句を言われる可能性がある!
どうすればいいのだ!?
考えるのだ吾輩。
このまま殺されてしまうことは避けなければならない。
何とか、何とかこの状況を計算して、解法を見つけ出さなければ……
遼東には吾輩を嫌う連中が多数いる。
今回、吾輩が批判していた連中もそうだ。
吾輩だけが戦果を出して妬んでいる連中も大勢いる。
更には軍規違反を厳しく処罰した。逆恨みする連中が多数いる……
ヌルハチの息子のホンタイジは謀略が得意であるという。
その弟ドルゴンもまた一代の英傑だ。
女真族はエースにジョーカーを揃えていて、他にも多数の手札がある。
彼らは吾輩を難敵として認定した。
あらゆる手段を使って、貶めてくるだろう。
しかも明は増税が多くて、もう限界だ。
なのに、どんどん装備が必要になる。どんどん金がかかるから増税できないのに、増税しなければならない。
既に反乱を起こす者が多数いる。これから増えることはあっても、減ることはないだろう。
以上からは……
Σ(y・n³)/n²-ym・dx
という計算式が導き出される。
この数値に更に
吾輩の様々な行動指数を展開して加えた場合、解は何だ!?
=Revolution(革命)
=Revolution(革命)
=Revolution(革命)!!
革命だ!
「今や明は
「えぇぇぇ!? ちょっと前にヌルハチを撃退したのに、今更寝返るんですか?」
「今だから寝返るのだ! 吾輩の株はヌルハチに勝って
どうせ史実でも明に処刑されるのだ!
明のサイドで何とかしようと頑張るより、清に寝返った方がマシだ!
かくして、吾輩は大砲などと引き換えに、ホンタイジに降伏することにした。
向こうもびっくりしたようだが、素直に受け入れてくれた。
「よし、袁崇煥が加わったからには、遼東は簡単に突破できるぞ!」
「ホンタイジ様、万歳!」
吾輩は防御網も知っておるし、守る連中が臆病者ばかりであることも知っている。だから、遼東を突破することはたやすいことだ。
「よし! このまま北京まで進攻するぞ! 袁崇煥よ、任せたぞ!」
「お任せあれ!」
いよいよ革命への最終段階だ!
吾輩は北京を包囲し、激しく攻撃を加えた。
遂に北京は陥落し、崇禎帝は自決した。
明・清革命はなった!
……はずだったが。
「農民反乱軍が
なぬ?
「李自成は新国家を『
「海賊・
おや……?
「ようし、袁崇煥よ! 李自成をも倒してこい!」
あれ、何か違うぞ?
史実では李自成が北京を陥落させて、その後清が李自成を倒したはず。
何故李自成が南に行って、吾輩がその討伐を任される?
というより、吾輩、ホンタイジに使い倒されていないか?
"女神の総括"
『途中の計算式はそれらしいものなだけで、全くのデタラメです』
「おかしい、おかしい……」
『いや、李自成が北京落とす十年も前に、あんたが北京落としたんだから、それは農民部隊も方針を変えて南に行くでしょ』
「それは分かるが、史実より李自成が反乱軍トップに着くのが早すぎんか?」
『歴史が変わったから、農民反乱軍も北に残ったものと南に向かったものがいたのよ。李自成は南に向かったわけ』
「そういうことか……」
『結果的に、清と大順による第二次南北朝が実現してしまったわけね』
「吾輩、長江で戦死してしまったし……」
『華北で強い将軍が川と湖ばかりの華南でさっぱりとか、その逆はいくらでもあるものね~。でも、戦死しなかったとしても呉三桂と同じ運命をたどっただけでしょ』
「結局、明末に生きた者はほとんど時代に搾取されてしまった、というわけだな……トホホ」
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