第93話 報われぬ忠誠~袁崇煥に転生しました・前編

 ワハハハハハ!


 吾輩わがはいは、カール・マルクス!


 世界が恐れる革命の申し子にして、いかなる苦難も恐れぬ運命の落とし子!

 世界を変えるべく前進してきた革命家が、遂に天界初上陸である!

 吾輩が天界も革命するのだ!

 

『また変なのがやって来た……』

「娘! 人がやってくるなり頭を抱えるとは失礼ではないか!」

『娘ちゃうわ! 女神よ! あぁぁ、どうして問題児ばかりやってくるのかしら』

「そういえば、フリードリヒが、死ねば別の人間に乗り移ることができると言っていた。もしや、ここがそれなのか? 吾輩は、遂に別作品でも主役を張ることになるのか!?」

『一つも主役張ってないでしょうが。登場人物の一人になっているだけで。転生できるのは本当だけど、はぁ、一体こいつをどこに転生させればいいのかしら……』

「吾輩には、三つの希望がある!」

『ほう? 一応、聞きましょうか』

「一つ、20世紀半ばの日本に転生したい! 吾輩の理想を限りなく実現した国の一つだ!」

『現代だからダメね』

「二つ、帝政以前のローマに転生したい! あれも身分対立を極限まで抑えた理想に近い形だ!」

『古代だからダメね』

「三つ、金持ちに転生したい! 吾輩は生前、常に金に苦しんだから、生まれ変われば金に苦労したくない!」

『……アンタ、自分の本で、階級闘争がどうのこうの、ブルジョワジーを打倒しなければいけないどうのこうのと言ってなかった?』

「それはそれ、これはこれだ! 吾輩は金持ちになりたい!」

『はぁぁぁ。何て面倒な奴なんだ! 金持ちになりたいのだったらこいつにでも転生しなさい!』


 何だ?

 資料が配られたぞ。


袁崇煥えんすうかんだと? こやつは中国だな。吾輩は、できればヨーロッパに行きたい。それがダメならアメリカ合衆国が良いのだが」

『贅沢言うな。彼は進士出身の高級官僚よ。間違いなく金持ちよ』

「ふむ、金持ち。それならば……って、Noooo! 何なのだ、この『最後は皇帝に疑われ、謀反の罪を着せられて処刑される』というのは!?」

『結末は分かっているんだから、避けられるように努力するのよ。みんな、やっていることよ』

「怖いではないか! 吾輩が処刑されたらどうするつもりなのだ!? 吾輩がちびったら、どう責任を取るのだ?」

『知るかー! さっさと行ってこーい!』


 うわぁぁぁぁ!

 吾輩を助けてくれ、フリードリヒ!



"天成の一言"

「フリードリヒっていうのは、盟友のエンゲルスのことだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る