第92話 ダーラヤワウシュ3世に転生しました・後編

 遂にマケドニアが攻めてきた。

 ハカーマニシュ朝はゴタゴタ続きだが、俺もできるだけのことはしている。

 とにかく迎撃の構えを取った。


 史実では、ダーラヤワウシュ3世はマレドニアの真意を読み取れていなかったはずだ。「地方を荒しに来たのだろう」くらいの感覚だったに違いない。

 だから、緒戦は指揮を部下に任せていた。


 しかし、それは間違いだった。

 アレクサンドロスは世界征服のために攻め込んできたのだ。

 それを読み違えて、緒戦で敗北した後も攻め込まれて後手後手になってしまった。


 だからマジでかからなければならない。

「このダーラヤワウシュが親征する!」

 そう宣言し、20万の兵力で迎撃に向かった。


 ギリシャの傭兵隊長メムノンが進言してきた。

「敵はギリシャから遥々遠征してきて疲れております。すぐに迎え撃たず、じわじわと進軍させてはどうでしょうか?」

 焦土作戦だ。

 しかし、別の貴族が反対した。

「相手はこちらより少ないのに、何故我々の民の家に火をつける必要があるのですか? 大王もいるのです。堂々と迎え撃ちましょう」

 こいつの発言も一理はあるが、史実では迎え撃って失敗した。

 ここはメムノンの意見を採用すべきだろう。


 貴族共は不満そうだが、ここは仕方ないのだ。



 史実ではトルコ西部のグラニコス川を挟んで戦うことになったが、焦土作戦を取ったのでトルコ中部・ユーフラテス川の上流で対峙することとなった。


 戦端を切ったのはマケドニア軍だった。

 ファランクス部隊が突っ込んできて、正面と激しくぶつかる。

 俺は叫ぶ。

「いいか! アレクサンドロスの部隊に気をつけろ!」


 ハカーマニシュ朝の三回の敗北は、全て騎兵に突破されて前後挟み撃ちにされてしまったことによる。

 奴らは歴戦の強者だ。ちょっとした隙間を突いて突破してくる。

 それは絶対に阻まなければならない。


 ただ、これは容易なことではない。

 ハカーマニシュ朝の軍は、大軍と圧倒的な戦意で敵に圧力をかけ、その戦意を喪失させることを得意としている。

 だから、日常的に前ばかり向いてしまいがちなのだ。

 しかし、前への意識が強くなると、横と後ろへの注意がおざなりになる。

 そこをアレクサンドロスに突かれてしまうと一網打尽だ。


 だから、そうならないよう、俺はひっきりなしに叫ぶことになる。アレクサンドロスが部隊と部隊の隙間を突破しないよう徹底的にケアをするのだ。


 3時間が経ち、6時間が経ち、半日が経過した。


 遂に、俺達の軍に綻びを見いだせなかったアレクサンドロスは撤退していった。


「勝った! マケドニア軍は退いていったぞ!」


 戦場に歓呼の声が響き渡る。

 世界最強のアレクサンドロスに勝ったのだ!



 次の日、俺は意気揚々とユーフラテス川下流域……バビロン方面に引き上げていった。

 のだが……


「大王! 各地の総督が反乱を起こしております!」

「何ぃ!? アレクサンドロスに勝ったのに、何故だ?」

「国民を危機に晒すような大王に大王たる資格はないと、何人かの総督が反旗を翻しました!」

「冗談じゃねえよ!」


 くっそ~、現代世界の野党みたいな難癖つけやがって!


 俺は一年間を反乱鎮圧にあてなければいけなかった。

 が、反乱鎮圧に一年も費やすと、当然……


「大王! マケドニアがまた攻め込んでまいりました!」

「しつこいな!」


 おまけに。


「大王! 前回、焦土作戦を取った地域がマケドニアに降伏しました!」

「大王! フェニキア人都市も寝返りました!」

「大王! エジプトが!」

「大王! バビロンが!」


 うがー!!!


 話が違うだろ!

 この転生はアレクサンドロスとサシの勝負じゃなかったのか!?

 後ろの反乱とか、別要因の詰みじゃねえか!


 こんな状況でアレクサンドロスと再戦して勝てるかー!

 ちくしょーーー!

 出てこい、女神めー!!


「大王!? いかん! 脳溢血を起こしてしまった!」




"女神の総括"

「話が全然違うじゃねえかよ!」

『だってぇ、謀略戦も含めて戦いでしょ? マケドニア軍にはプトレマイオスみたいな知将だっているのよ。単純な喧嘩だけってことはないわよ』

「こっちには誰もいねえじゃねえかよ! 勝てるかー!」

『でも鄭和は勝ったわよ』

「何!? あの変態宦官が? どうやって?」

「決まっているじゃなぁい♡ 即位と同時に、マケドニアに海軍で攻め込んで時間稼ぎをして、その二年間で国内を完全掌握したのヨ。アレクサンドロスを待つ必要なんてないワン♪ アタシから掘りに行ったのヨ」

「掘りに行ったとかやめい。そ、そうか……こちらから攻めれば良かったのか」

「物事は大抵、先手必勝ヨ。覚えておいた方がいいワ」

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