第91話 ダーラヤワウシュ3世に転生しました・中編

 最初の世界帝国と言われているハカーマニシュ(アケメネス)朝だが、近年の研究では巷間伝わる話とは違っていたらしいことが言われている。


 ハカーマニシュというのは家系の名前だ。

 国の名前に家系がつくことはよくある。ハプスブルク朝とか、アッバース朝とか聞いたことがあるだろう。


 ただ、この帝国に関して言えば、始まりと終わりはハカーマニシュではなかったのではないか、と言われている。


 元々、この帝国はチシュピチュを祖とするクールシュ2世(キュロス2世)がメソポタミアの三か国(メディア、カルデア、リュディア)を倒して強国とし、その息子カンブージヤ2世(カンビュセス2世)がエジプトも倒して、オリエント全域を支配した。


 このカンブージヤ2世はエジプトから更に南に遠征しようとしたのだが、弟に反乱を起こされて、謎の死を遂げてしまう。


 その後のゴタゴタを治めたのがダーラヤワウシュ1世(ダレイオス1世)だ。彼の時代にハカーマニシュ朝は世界帝国として完成することになる。

 ただし、このダーラヤワウシュ、有能なのだが正統性には疑問符がつけられていて「実はチシュピチュ系列を乗っ取ったのではないか」と言われている。


 ダーラヤワウシュが言うには「自らの祖であるハカーマニシュはチシュピチュの祖でもある。自分はカンブージヤの親戚だ」とのことだが、そうではないわけだ。勝てば官軍で家系なんかいくらでも作れるからな。


 ま、とりあえずダーラヤワウシュ1世が世界帝国を築いた。

 で、その時代にギリシャポリスとの間にペルシャ戦争を始めることになった。



 これは他ならぬこの俺アルタシヤータにも被る事なのだ。実のところ俺は、ハカーマニシュ家ともチシュピチュ家とも関係ない。単なる地方総督だ。

 そんな俺がダーラヤワウシュ3世として、ハカーマニシュ朝十代皇帝として即位することになる。



 ダーラヤワウシュ1世から百数十年が経ち、アルタクシャサ(アルタクセルクセス)3世が即位した。こいつは後のオスマン帝国スルタンのような奴で、権力を固める過程で兄弟姉妹系列を全員殺害してしまった。百人以上いたらしい。

 おかげで本人の権力基盤は固まったが、血筋存続が強烈に弱くなってしまった。


 おまけに女性親族まで殺害したから、宦官が跋扈するようになってしまった。

 宦官のうちからバゴイという奴が出て来て、こいつが皇帝アルタクシャサ3世を暗殺し、唯一残ったアルタクシャサ4世を皇帝につける。ところが、こいつとも対立してしまいすぐに毒殺してしまう。


 大・混・乱というやつだ。


 さて、ギリシャポリスもペルシャ戦争の後、しっちゃかめっちゃかだったが、この頃には辺境から出て来たマケドニアがギリシャを制圧していた。

 マケドニアの王フィリッポス2世は、「あれ、ハカーマニシュ朝グラグラじゃね?」と思ったようで「今までギリシャがやられた恨みを晴らすぞ」と戦争準備を始めた。


 マケドニアが動き出しそうということで、バゴイは軍人を皇帝にしようと思ったのだろう(奴は宦官だから自分が皇帝になるのは難しかった)。俺に白羽の矢を立ててきた。

 しかし、このままだとバゴイに好き勝手やられるのは目に見えている。そこで俺は先手を打って、バゴイを毒殺した。


 同じ頃、マケドニアのフィリッポス2世が暗殺されて、アレクサンドロスが王位についた。

 毒殺とか暗殺ばかりで嫌になるが、ようやく役者がそろった。



 俺を取り巻く状況を整理しよう。

①各地の総督は「ダーラヤワウシュ3世って誰? 皇帝を名乗っているけど、あんなのハカーマニシュ家にいたっけ」と俺に対して大いに疑念を持っている。

②アルタクシャサ3世が反乱を盛大に鎮圧していたので多くの地域がボロボロである。その状況に不満を持つ者がいつ反乱を起こしても不思議はない。

③宮廷は、アルタクシャサ3世とバゴイが大掃除した結果、誰もいない。

④アレクサンドロスという世界最強クラスの敵が攻めてくる。


 ……アレクサンドロスは頭がおかしい上に強くて、圧倒的に強いペルシャ帝国を打ち破った、と喧伝されることも多い。


 とんでもない。

 普通に戦えば、勝てる相手なのだ。今のハカーマニシュ朝は。

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