第85話 ラ・ヴォワザンに転生しました・中編

 かくして、17世紀のフランスへと転生しましたわ。


 史実のラ・ヴォワザンは毒使いのまさしく魔女と言って良い女のようですが、そのような女にはなりませんことよ。

 ワタクシが目指すのは悪女ですが、ファム・ファタールのような女です。

 単なる悪い女は願い下げですわ。

 駄女神が何と言おうとも、この世界のワタクシは清く正しく生きてまいりますわ。


 うん?

 こ、これは……!?


 辺りの草を眺めていると、その毒性値が見えますわ!

 いわゆる、ステータス閲覧というやつでしょうか!?

 毒性値しか見えませんが。


 何ということでしょう!

 この世界に、こんなに毒物になれる植物があったなんて!

 医師が薬のデータ表を見て、「これをこの病気の患者に処方すれば良くなる」と思うのと同じように「この植物をこう加工して、こう飲ませればアイツは死ぬ」というのが分かりますわ!

 世界は、こんなに毒で溢れていた!

 信じられないことですわ!


"女神の一言"

『説明しよう。奥洲郁子の頭蓋骨内には八歳児相当の脳容量しかない。しかし、転生時には余ったスペースに転生相手の脳細胞が入ってくるため、その才能や思考を如実に得ることができるのだ。説明終わる』


 ……何か変な声が聞こえたような?


 まあ、良いですわ。

 どうやら、ラ・ヴォワザンにとっての才能は毒に特化しているということが分かりました。

 ここまで才能が突出しているのであれば、使わない手はありません。

 出来ないことに手を伸ばすのは愚か者のすることですわ。


 かくして、ワタクシは裏稼業として、毒薬やら呪いやらに手を染めることにいたしましたわ。


 三年後。

「オーッホッホッ! まさしく左うちわですわ!」

 ワタクシは大儲けをし、優雅な暮らしを行えるようになりました。


 善やら悪など、考えてはいけません。

 善人だって「あいつさえいなければ」と思うような者がいるはずです。ワタクシはそういう者を効率よく除去する方法を伝授して、善人が気持ちよく善行を行えるよう手助けしているのです。

 毒は悪いものではありませんわ!

 新陳代謝をはかどらせ、不要なものを捨て、正しいものを残すための正しき行いなのです!

 みんながハッピー、ワタクシもハッピー、これぞウィン・ウィンの関係ですわ!


「……旦那が浮気しているのです。許せません」

「浮気をするような男など、神がお許しになるはずがありません。この薬には強盛作用もありますから、頑張るために飲みすぎて心臓麻痺を起こしたということで済みますわ」


「ナマモノ同人誌を書いている自称芸術家がいるのだ。何とかしたい」

「ナマモノ同人誌を書くなどもっとも悪魔的な行為ですわ! そのような奴らには情けは無用。この薬を飲ませれば、三十秒後に爆発いたしますわ」

「爆発って、これ毒薬じゃなくて爆薬って言うんでは……?」

「細かいことを気にしていては負けですわ」


「黒ミサをやって、邪魔な奴らを始末したいです」

「邪魔な奴らがいる世界など何の価値もありませんわ。コレ次第でいくらでも手伝いますわよ」


 このように、ワタクシのビジネスはいたって順調でした。

 このままの規模で行っていれば、安全なのですが……


 その日、その女がやってきました。

「ラ・ヴォワザンとは貴女のことですね……」

 黒い帽子とヴェールで顔が一切見えないその女。

 しかし、使われている絹が高級なものであることは一目瞭然です。

「……浮気した若い女を人知れず殺害することができると聞きました。私の望みも聞いてくれないでしょうか?」

 そう言って、帽子を取り去ります。

 少しトウが立っておりますが、若い頃はさぞやと言われただろう顔立ちです。

 ワタクシも色々な人間を見てきたので分かります。

 この女は、とてつもない上流にいる人間なのだと。

 それだけの人間が殺したいと願っている人間ですから、これまた、相当に上の方にいる人間なのだ、と。


 どうやら、ワタクシの人生、転機を迎えたようですわね。

 この女の先にあるのは、栄光か破滅……。


 もちろん、栄光を掴んでみせますわよ!

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