第77話 近代のニート誕生?~マクシミリアンに転生しました・前編
俺の名前は奥洲天成。
前回、俺は50年罵倒の刑という転生では最悪クラスの失敗をしてしまった。
『あれは成功者がいないから失敗したこと自体は仕方ないわね』
「……もう戦犯系は嫌だ。あとゴールキーパーも嫌だ」
『さすがにゴールキーパーに二度転生させたら、タイトル詐欺になってしまうからね。今回は中世ではなく近代に近いけど、マクシミリアンなんかどう?』
マクシミリアン……。
ハプスブルク皇帝の弟として生まれ、国が欲しくてメキシコに赴き、反乱軍に打倒されて処刑されてしまったという男だな。
「でも、マクシミリアンって、この作者の別作品でも出ているよな?」
『そうよ。その時色々調べたんだけど、そっちではそこまで必要なかったから、悔しいんで流用するみたいだわ』
なるほど。
そういうことはままあるのかもしれないが、作者も横着だな。
『マクシミリアンに転生したなら負けたらすぐ処刑で、長期生殺しの刑にはならないから楽なものでしょ?』
気楽に言ってくれる。
おまえも一度くらい誰かに転生しろよ、くらいのことを言いたくなる。
とはいえ、ゴールキーパーへの転生でないのなら、まあいいだろう。
「分かった。転生しよう」
さて、どういう路線で行くべきか。
最良の人生というのは、メキシコの反乱軍をどうにか押さえつけて、メキシコ皇帝として人生を全うすることだろう。
だが、これはそう簡単なことではなさそうに思える。
まず、政治と外交はともかく、軍事的にはイマイチなナポレオン3世の提案というのが危険極まりない。フランス軍がアテにならない。しかし、メキシコの在地軍はというと、フランス軍以上にアテにならない。
何なら現代だってメキシコ軍は汚職とコネが蔓延していてアテにならない。
そして相手はというと、ゲリラ戦に持ち込んでしぶとく抵抗したという。メキシコの山が多い地形を考えると、中々に厄介な戦い方だ。
最良だが、難易度は相当に高い。
そうでないルートはというと、恥も外聞も気にせずニートとして暮らすことだ。
マクシミリアンの場合、国を持つことを断念していれば死ぬことはない。皇帝の弟なので年金生活が約束されている。
もちろん、長々とこんな生活を送っていると「ハプスブルク家の穀潰し」として家や国からは弾劾されそうだ。
とはいえ、当時のハプスブルク家にはもっと酷い穀潰しがいた。皇后エリーザベト・フォン・エスターライヒだ。
ウィーンは嫌だと言い張り、帝都にほとんど寄り付かず、常にどこかを旅していた風来坊だ。当然、行く先々で贅沢をしている。
彼女がいる以上、マクシミリアンが多少ニートだったとしても怒られることはないだろう。
ニートは重荷ではあるが、旅費や交際費まで要求しないからな。
基本路線としては、メキシコ皇帝をスルーして、別地域の領主の座が巡ってくるまでニートしているのが賢いだろう。
ニートは悪い存在ではない。ニートより酷い穀潰しは山ほどいる。
ニートは常に次善の策に生きている者達なのだ。
そのことは理解してやってほしい。
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