第76話 武田勝頼に転生しました・結末②

 さて、長篠の後、武田家は美濃と尾張にワゴンブルク(馬車兼要塞)を送り込んで、2、3年ほどは略奪に専念することにしたわ。

「天下を目指すのに略奪してよろしいのですの?」

「幕末、長州も薩摩も対外戦争で幕府に金を出させて、返済していないわ。清く正しいだけでは勝てないのよ」

「さいですか......」


 領土拡大のきっかけとしては、1578年に上杉謙信が死んだことがあるわ。

 信玄も勝頼に「何かあったら謙信を頼れ」と言ったけど、謙信も同じことをしたのよ。いえ、謙信の場合はもっとあれで......

「拙僧には景勝(一族の息子)と景虎(北条家から来た養子)という二人の養子がいるが、どちらに家督を継がせるか迷っている。どうすればいい?」

 と相談してきたわ。


 史実では景勝だけど、北条にも恩を売りたい。

 だから、「同盟を考えれば景虎の方が良かろう。景勝は預かっても構わない」と返答をしたところ、謙信は景虎を後継者にして、「何かあったら信玄を頼れ」と言ったようね。

 これで上杉と北条を友好政権にすることができたのよ。

「......そういえば、史実では勝頼は北条家から正室を迎えておりますが?」

「そうね。長篠で負けたから北条家との関係強化が必要だったからね。だけど、彼女は13歳くらいよ。中年男が若い乙女を毒牙にかけ、荒々しい獣欲を白い柔肌にたたきつけるシーンでも書きたいの?」

「そういう出来の悪い官能小説みたいなのは嫌ですわ」

「だから、無しよ」


 こういう具合に信玄の威光を利用しつつ、勢力圏を拡大していったわ。

 勝頼本体としては、上の世代に口出しすると煙たがられるから、下の世代・北条家なら氏直、上杉家なら直江兼続あたりに重点的に交流を伸ばしていく。年寄りがまとめて死んだ頃に、世代交代という形で進めてしまうのよ。

 まあ、信玄は私の左手だから、世代交代も何もないのだけど。


 いよいよ、本腰を入れて織田を攻撃するわ。

 畿内で本願寺と足利将軍、丹波の波多野、大和の寺社と松永、北陸の上杉とともに美濃・尾張への攻撃を開始、全方位から締め上げにかかるの。

 この場合、当然信長は根拠地である美濃・尾張の防御を優先することになる。

 足利義輝やらの時代には京を取り合って、負けた側が拠点地に逃げるなんてことは日常茶飯事だったからね。京は取り返せるけど、拠点地を取られたらもう終わりよ、尾張だけに。

「面白くないですわ」


 まずは上杉景虎と直江兼続が近江を占領したわ。

 そうすると比叡山延暦寺がすぐに接近してきたわね。

 彼らは信長に焼き払われたりして嫌な思いがあるのよね。

 その恨みもあるし、信長がいなくなって、金儲けできる時代(延暦寺などの寺社は金貸しで莫大な利益をあげていたのよ)に戻りたいから、武田には惜しみなく融資をしてくれると言ってきたわ。

 もちろん、有り難く頂戴するわよ。

 代替わり時に寄進扱いにして踏み倒すけどね。

「エグいですわ」

「幕末の志士も相当踏み倒したらしいし、みんなやっていることよ」


 大和の寺社からも同じ方法で金を巻き上げたわ。

 所詮、彼らは旧秩序。大手を振られては困る存在よ。

 信長が痛めつけてくれたのが幸い、止めを刺してあげるわ。


 自分の上前をはねられている様子を見て、さすがの信長も観念したようね。

 勝頼の方に和睦を申し出てきたわ。勝頼相手ならまだ逆転の望みがあると思っているのでしょう。

 信長には「明と朝鮮支配して、そっちの領主にならない?」と誘いかけて、前向きに協力させるわよ。


 あとはひたすら流れ作業ね。中国、四国、九州と攻め入り、小早川隆景や立花宗茂あたりをうまく取り込むことに成功したわ。

 天下をほぼ統一できたところで、信玄には書類上も死んでもらって、勝頼政権を正式に発足させるわ。

 ほぼ全ての地域で下の世代がメインになったから、政策変更も円滑だし、寺社は文句を言っているけれど、「何なら寺社奉行に信長を据えるぞ。悪夢のような信長時代に戻ってもいいのか?」とでも言って黙らせておくわ。


 日本を統一すると、血の気の多い武士達は邪魔になってくるから、やる気満々の信長と秀吉に押し付けて朝鮮と明に進攻させることにしたのよ。

 朝鮮軍の情報も、明軍の情報もしっかり覚えているから、彼ら二人なら何とかしてくれるでしょう。


 これにておしまい。



"女神の総括"

「さすがに明は広大で、私や信長の存命中には支配できなかったわ。でも、他はほぼほぼ達成したわね」

『ぐぬぬぬぬ』

「一人二役で世代交代を計画する。これができればまず滅ぶことはないわね。交代時に資金もゲットできるようにしておけば更に完璧だわ」

『普通の人間にそんなことできるはずがないでしょーが! しかも、とことんまで上から目線で偉そうに』

「だって幽霊だもの。いつも空の上から人間を見下ろしているわ」

『そういうことを言っているんじゃない! あっ、こら! 逃げるな! 戻ってきなさい!』

 やれやれ、こんなグダグダな様子では、天界も長くないわね。

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