第72話 相性の問題?~武田勝頼に転生しました・前編

 私は新居千瑛にいい ちえ


 五年前、急性白血病で死んで以来、世界と世界の狭間をさまよう幽霊よ

 虚無の存在にして、果てしなくはかなく、果てしなく自由な存在。

 今日も空を浮遊しつつ、面白いことがないか探しているわ。


『コラー! にいいちえ! ニーチェー! いい加減出て来なさい!』

 あら、天界からの追手だわ。面倒な奴らね。

 逃げることは簡単だけど、もう五年間ずっと追いかけてきているのよね。

 いい加減うざいし、一度出頭してみましょう。


「何か用?」

『何か用じゃないわよ! 死んだら天界に来て、次のことを決めるのが普通でしょ! 勝手に一人でさまよっているんじゃない! しかも自分をどんどん改造しおってからに! どこの世界に半分電子化してネットに入り込む幽霊がいるのよ! 幽霊なら幽霊らしく同じ場所に滞在していなさい!』

「時代は変わるのよ。幽霊が同じ場所にいるのは20世紀までの話だわ」

『成仏して、別の存在として輪廻しなさい!』

「嫌よ。せっかく得た究極の自由よ。どうして手放さないといけないの?」

『女神の言うことが聞けないわけ!?』

「私の考えでは、神は死すべきだと思うのよ。人間は自由を取り戻すべきだわ」

『あかんわ、こいつ……』


 私と自称女神の話し合いは平行線をたどったわ。


『条件を出しましょう。もし、大失敗した人間に転生して、逆転人生を送れたら幽霊のまま存在することを認めるわ』

「……何だか、私が圧倒的に不利な条件のような気がするけど? まあ、いいわ。誰に転生すればいいのかしら?」

『武田勝頼よ』

 武田勝頼……。

 織田信長に負けて、武田家を滅亡させてしまったボンクラね。

『最近では、そこまでボンクラではなかったという説も多いわよ。状況が厳しかっただけで』

「それでも肝心な戦いで負けるなんてボンクラでしょ。早い話、ボンクラな武田勝頼の頭脳を、私のものに入れ替えることでアップグレードしようというわけね」

『アップグレード言うな。武田ファンを敵に回す気か』

「……いいわ。武田勝頼をやってあげる」

『あら、えらいまたあっさりと』

「要は、長篠で勝利して、戦国日本を平定して、できることならば明と朝鮮も支配しろということよね?」

『そこまでやる気なの!?』

「違うのかしら?」

『いや、まあ、それができるなら好きなようにやればいいけれど……。じゃあ資料を確認した後、1546年に転生してちょうだい』

「1546年? 何でそんな大昔に転生する必要があるの?」

『いや、武田勝頼が生まれたのはその年でしょ』

「刺激のない人生に30年も付き合いたくないわ。長篠の合戦の一年前に送ってもらえれば充分よ」

『いや、あんた、武田家の状態分かっているの? コーエーやカプコンのゲームみたいにバッサバッサできると勘違いしてない?』

「私がそう勘違いしているのなら、速やかに成仏させることができて天界にはラッキーでしょ? 四の五の言わず1574年に送ってちょうだい」

『へいへい……』


 こうして、私は1574年の武田勝頼に転生することになったわ。

 果たして、どんな刺激が待っているのか、楽しみね。

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