第69話 永遠に赦されざる者~モアシル・バルボサに転生しました・前編

注意:今回は事実上の番外編です。


 俺の名前は奥洲天成。


 数ある難人生をクリアしてきた凄腕転生者と呼んでもらっていい。

『ルイ16世でも最低限の成果を残したとなると、さすがに転生先が少なくなってきたわね~』

 女神もぼやくようになってきたほどだ。

『これはいよいよ、これまで99999999人が挑んで、一人も成功できなかった難ミッションに挑むときが来たようね』

「何、そんな難ミッションがあるのか? というか、同一人物に9999万人も転生しているのか?」

 天界、どれだけ転生者抱えているんだよ。

 というか、それだけいて一人も成功できないってどんな難ミッションなんだ?


 3歳で即位して、5歳で禅譲して殺された皇帝とかか?

 それは難ミッションじゃなくて不可能ミッションだと思うが。


『やってみる? モアシル・バルボサの険しく厳しい人生を。もっとも恨まれ、憎まれ、永遠に赦されざる者の人生を……』

「えっ、誰なん、そいつ?」

『さぁ、乗るのかコールなのか! 乗らないのかドロップなのか! はっきり言葉に出して言ってもらおう! テンセイィー!!!』

 何なんだよ、このノリは!?

 別にディオの秘密賭けたりしていないし、乗るよ。


『乗ったわね。コールしたわね? じゃあ、資料室に行ってきていいわよ』

「ラジャー」

 俺は資料室に向かった。


 そして、愕然とした。


「こ、これは……」

 モアシル・バルボサ・ド・ナシメント。

 1940年代から50年代にかけてのブラジルの黒人ゴールキーバーだ。

 その唯一に最大のハイライトは地元開催1950年のワールドカップ。

 優勝のかかった試合で、バルボサは相手選手がセンタリングをあげると思いこみポジションを前に置いたところ、直接シュートを打たれて止められなかったという。

 これが決勝点となり、ブラジルは負けた。

 いわゆる、マラカナンの悲劇という奴だ。


 敗北のショックに、スタジアムで4人が死亡。ブラジル中が葬式のような雰囲気となったという。

 その怒りのほとんどは、失点の際にまずい位置にいたバルボサに向けられた。

 人種差別も相まって、その罵倒たるやものすごいものだった。

「黒人なんかをGKにするから」

「あんな奴がいるからブラジルは母国で勝てなかった」

 その後、ブラジルが優勝するようになっても、バルボサは許されなかった。

 ついでにブラジルの黒人でGKをやろうという勇敢な者もほとんど出てこなかった(90年代にジーダが出てきた)。


 バルボサはこう嘆いたと言う。

「ブラジルの最高刑は懲役30年なんだ。なのに、私は50年経っても許されないんだよ」と。


 2014年、ブラジルは二度目の地元開催のワールドカップでまたやらかした。

 今回はドイツ相手に1-7の敗戦で、『ミネイロンの惨劇』と呼ばれた。

 ただ、この敗戦は全員がダメ過ぎて、特定の誰かが戦犯となることがなかった。


 73年経った今でも、バルボサはブラジルサッカー界極悪犯罪者筆頭の地位を譲る気配がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る