第68話 ルイ16世に転生しました・後編

 私兵の訓練は順調に進んだ。


 自分で言うのも何だが、世界最強の兵ができたと思う。

 その根拠は、後々明らかになるだろう。


「陛下、何故戦争準備をしているのですか?」

 マリー・アントワネットが俺に尋ねてきた。

「マリー、王権というものは、時に勝ち得る必要があるのだよ」

「そうなのですか?」

 ピンとこない様子だ。

 この時代は王権神授説だからな。


 そうこうしているうちに、民衆の不満が高まってきた。

 今もそうだが、「一体どのように国の金が使われているのか?」と文句が湧き上がり、ネッケルが国の財政を公表しようと言い出した。

 これ自体は反対しない。

 史実では、この財政公表で宮廷費とかが無茶苦茶多いことがバレて、国王は苦しい立場に追いやられた。贅沢をしていたというよりも使う基準がなかったから、思い思い使ってそうなっていたわけだ。


 それは避けたい。

 なので、俺は宮廷費を貴族や僧侶に下賜して、その項目を入れるようネッケルに命じた。

 宮廷費は多いが、それは俺のせいではなく、貴族と僧侶、要は三部会における第一身分と第二身分が悪いせいだと、話をすり替えるのだ。


 この目論見はうまくいった。

「貴族と僧侶の特権を廃止しろ!」

 という民衆からの要望。


 俺は高らかに応じた。

「貴族の特権を大いに制約しよう。軍での特権も完全に廃止する!」

 当然、貴族は大激怒だ。「国王は狂われた」と宣言し、軍が宮殿を制圧するが、俺は私兵とともに一足早く撤退し、反撃の準備をする。

 あ、ちなみにマリー達も帯同している。


 軍は三万の兵を派遣してきた。

 こちらの近衛兵は千人だが……


 俺達は快勝した。


「見たか! これが神に選ばれた王の力だ!」


 快勝の原因は、大したことではない。

 弾丸の違いだ。


 19世紀半ばまで、銃器の進化は進んでいたが、精度の研究は遅れていた。

 特に弾丸は、文字通り丸かったため、空気抵抗を受けまくりまともに進まなかったという。

 七年戦争時の戦いにおいて、プロイセン軍の弾薬消費と相手負傷者の関係を調べると260発撃たないと当たらなかったという話もある。


 こうしたものが改善していったのは、1852年にマグヌス効果の発表があって以降だ。

 つまり、相手がいくらいようと、あまり恐れなくていい。

 こちらは、現代式の円柱型の弾丸を用意し、それで練習したのだから、精度の違いは一目瞭然、相手が近づいてくる前に発砲してバッサバッサと打ちのめしていったというわけだ。


 これで貴族は完全に面目を喪失し、一方の俺は「国王はやっぱすげぇ」という評価を勝ち得た。ある意味悲しいが、国王が大いに面目を施すのは戦いでの勝利だということを示してしまったと言っていい。

 これで貴族の特権剥奪、没収財産で一時凌ぎはできたが、当然ここまでの荒療治だと副作用も凄い。貴族達が縁故者を頼ってたちまち反フランス同盟が結成されてしまった。参加してないのはマリーの故郷のオーストリアくらいだ。


 もっとも、フランス国内はまとまった。

 改革を阻む外国を倒せとばかりに、国民義勇兵が集まってくる。


 革命は起きなかったが、結果はあまり変わらなかった。

 やはり、穏便な解決はなかった。

 外国を倒すか、フランスがやられるか……




“女神の総括”

『で、イギリスとの戦いで流れ弾に当たって戦死してしまった、と』

「一度技術改良すれば、相手も合わせてくるからなぁ。いつまでも勝てないし、貴族に勝ったあと、軍をほぼ解体したせいで、スウェーデンばりの少数精鋭になってしまった。グスタフ・アドルフやカール12世と同じ結末になってしまったな」

『でも、フランスを占領しようというイギリスやドイツには国民軍が大反撃して、中でもナポレオン元帥が大活躍したのは皮肉よねぇ』

「王制が断固残ったから、元帥止まりだけどね」

『変に祭り上げられたり、権力掌握に精力使わなかったから、ずっと活躍できたのも良かったわね。成功の軍功を全部持っていったけど』

「まぁ、ルイ17世とマリーは長生きしたから、良かったよ」

『……貴族がことごとくギロチン送りにされて、犠牲者の数はフランス革命が起きた場合とほとんど変わらないんだけどね』

「俺が死ななければそれでいいんだ」

『世の独裁者はみんなそう思っているんでしょうねぇ』

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