第61話 ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルスに転生しました・中編

「イネスちゃんは天才だね!」

「イネスちゃんに任せれば何でもやってくれるよ!」


 オーッホッホッホ!

 ワタクシは天才ですのよ!

 何でもやってみせますのよ!


 おっと……コホン。

 失礼いたしました。

 ワタクシ、メキシコの一般人女性イネスとして転生しましたが、三歳までには読み書きを終え、五歳くらいまでには一通りの学業を修めました。

 何かを見るだけでスラスラと詩文が出て来て、少し考えるだけで中々の哲学的なことを言えるくらいです。


 信じられませんわ。

 ワタクシ、今回ほど自分が"選ばれた人間だ"と思ったことはありません。


 しかも、ワタクシの環境は特によくもなかったのですよ。

 前話で「父」と思っていたのは実は祖父でした。

 父親と母親は結婚しておらず、父親はワタクシが生まれるとすぐにドロンと消えてしまったようです。

 母はワタクシを含めて婚外子を六人も作るという中々パワフルな女性でした。農園経営の傍ら、育児をしているというそんな感じです。


 カトリックの信仰厚いスペイン領なのに、こんなことで良いのかというツッコミがありえますが、そこは情熱の国メキシコ。気にしていては負けですわ。


 ワタクシの神童ぶりはスペイン植民地中に広がり、12歳にして副王夫妻の侍女として雇われることになりました。

 その日から、ワタクシは副王夫妻の代理として、ウィットの利いた文、詩文、作曲、絵画などを手掛けることとなりました。

 本当のことですのよ。


 ここまで頭がいいと、単なる悪女として君臨するのはもったいなく思えてきましたわ。アイザック・ニュートンやシェイクスピアの上を行く天才として名前を残すべきではないでしょうか?


「イネス、そんなことは男がすればいいのですよ。貴方は結婚して、女の幸せを勝ち取り、のんびりと暮らすのです」

 副王妃はこんなことを言ってきます。

 これは決して悪意はないのでしょうが、ワタクシには非常に物足りない話です。

 とはいえ、なまじ上流階級付きの侍女となってしまったので、勝手な事をすることは難しいというのも事実。

 おまけに頼まれたら断らずに恋愛詩を沢山書いていたのが凶となりました。ワタクシが情緒豊かで恋愛の達人、素敵な恋を求めていると思われているようです。

 あれは「こういうのならpv増えそう」とか思って、創作論を眺めつつ適当に書いただけなのですが。


 ともあれ、彼らが勧める相手と結婚するか、あるいは神と結婚して一生を修道院で過ごすかという二択を迫られるようになりました。

 ああ、十八にして、このどちらかを選ばなければならないとは、何という辛い時代なのでしょう。


 結婚を選ぶと完全に制約されてしまいます。

 ですので、選択肢は修道院しかありません。

 もしかしたら、修道院に行けば、そこにある文献に目を通せるかもしれないな~という期待もあります。ですので、修道女への道を選びましたが、これは非常に甘い考えでした。

 ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルスという修道女としての名前をゲットしましたが、そこにあるのは退屈な日々ばかり。


 上司の許可を貰わないと詩すら書けない有様です。


 こんなことは許されません!

 ワタクシの天才的頭脳をじめじめした修道院で朽ち果てさせるなど、世界史上に残る犯罪ですわ!


 どうにかして、この境遇を脱出し、世界に名を馳せる天才ソル・フアナ・イネスとして名前を残さなければなりません!


 力を、私にここを出る力を!



"女神の一言"

『ここまではpv云々を除いて大体人生通りです。後編はちょっと変わるようです』

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