第55話 項羽に転生しました・中編

 項羽に転生できるというので調子に乗って、最強を目指したら、あまり最強になれなかった。


 ということで、二度目の転生ではもう少し賢く戦う項羽を目指すことにする。


 とはいえ、項羽である。

 項羽や呂布に転生して、策を弄したり、賢く戦うというのはちょっと無しではないだろうか。そこにロマンはない。

 あまりにも阿呆な手は取らないとしても(范増に不信感を抱くとか、そういうのは無しだ)、張良の上手を取るような策略は弄しない。

 ある種の縛りプレイと言ってもいいだろう。

 こんな生き様は、既に何勝かしている俺だから許されるというものだ。


 そう、俺は覇王の戦いを体現するのだ!


 項羽の体はものすごい遺伝子を持っているのか、とにかくとんでもないパワーが出て、200キロくらいある分銅をぶんぶんと振り回せる。

 戦場でこいつを持って駆ければ、敵をまとめて数十人くらいは仕留められそうだ。


 さて、時代は秦。

 キングダムの面々が無事にハッピーエンドを迎えて二十年後くらいの世界だ。ちなみに作者はキングダムを途中までしか読んでいない。


 始皇帝が死に、天下は動乱している。

 そこに陳勝と呉広という二人が反乱を企てた。


 秦は法律絶対主義だ。しかも、この時代の法は厳しいから、不満は溜まるし、犯罪を犯してしまって、法で裁かれる前に逃げてしまった連中も沢山いる。

 そういう連中がたちまち陳勝と呉広に従ったというわけだ。


 ちなみに陳勝と呉広は、始皇帝の長男でまあまあ優秀と言われていた扶蘇と、俺の先祖筋にあたる楚の名将項燕を名乗った。どちらも死んで日が浅いし、生存説もあったから、民衆に賛同されるにはちょうど良かったようだ。

 実際にこの二人がタッグを組むなんてことは、プロレスの世界でもまずありえんと思うが。


 閑話休題。

 陳勝と呉広の二人は頑張ったが、所詮は農民。専業指揮官ではない。

 秦が名将章邯しょうかんを出してくると、たちまち敗退。二人とも戦死した。


 ただ、その死で終わったわけではない。陳勝死すとも反乱は死せずということで、反乱を俺達が引き継ぐことになる。


 前後して、俺は叔父の項梁こうりょうに呼ばれて、反乱軍を結成することにした。

 と言っても、一から組織するのは面倒だから、既に組織している連中のところに乗り込んでいって、トップの殷通いんつうをぶっ殺して乗っ取ることにした。


 殷通は悲惨だが、トップの地位は死ぬ気で守らなければならないし、上を目指すなら覇王を乗り越えていくくらいの気概がなければならない。

 覇王たる俺を使いこなすのなら、大覇王とならなければならない。

 それができないのなら、覇王に潰されるしかない。


 反乱は当初絶好調だったが、これはまあ俺達の根拠地近くだったからだ。

 俺達の根拠地楚の秦への恨みは凄まじい。「楚は仮に三戸になったとしても、それでも秦を滅ぼすのは楚だ」と言われたほどだ。当然、みんな秦が大嫌いだし、こんなところに派遣されてくる秦の連中も死に者狂いで戦うことはない。


 ところが、項梁は「秦は弱い」と思ってしまったようで、どんどん突き進んでいく。「退かぬ、媚びぬ、顧みぬ」を地で行く話だが、残念ながら叔父は覇王でも聖帝でもない。

 秦が章邯を出してきたらやられて戦死してしまった。


 ところが、章邯も章邯で項梁を倒して安心して、別の方向に行ってしまった。

 この覇王を捨て置いて、他所の戦線に行くとは愚か極まりない。

 俺は一気に攻め込んで、章邯を追い詰めることに成功した。奴は救援を求めようとしたが「結構妬まれているし、勝っても殺されるよ」と助言されたらしい。

 俺に降伏してきた。


 章邯の降伏はありがたいが、奴が連れている二十万の秦兵は鬱陶しい存在だ。

 こちらの軍よりも多いくらいだし、先程言ったように秦と楚はとことんまで仲が悪い。いずれ、兵士同士が喧嘩を始めるに決まっている。


 史実では項羽は策を弄して二十万の兵士を全滅させた。

 俺はそれに従うべきか。


 雑多な兵では劉邦には勝てない。

 史実に従うとしよう。

 どうせ恨まれるのは俺じゃない。章邯他、実行する秦の幹部達だ。


 覇王のくせにセコい?


 相手に媚びるような兵士など無用!

 戦場に立つ男なら己の手で未来を切り開いてみせよ!



"女神の一言"

『史実と何も変わらん気が……』

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