第54話 目指せ覇道〜項羽に転生しました・前編

「貴様らのような愚物に、この覇王・項羽が討ち取れると思うのかぁ!?」

 俺の右手が30倍の大きさになり、雑兵を次々となぎ倒していく。

「滅せよ!! 気功砲!」

 放たれるオーラが二千人の秦兵を吹き飛ばす!


 しかし、秦兵はあまりにも多かった。

 数万、いや数十万の兵士に囲まれ、矢も受けて体が次第に重くなってきた。

「ぐっ! この覇王が膝をつくなどと!」

 無意識に膝をついたことにショックを受ける。

 そこに背中に斬撃を受けた。

 背後に無数の兵士が迫り、槍が、剣が貫いていく。



『......お帰り』

 女神の冷たい視線が向いてくる。

「た、ただいま」

『秦も倒せず死んできたわね』

「おかしいなぁ」



 話は少し前に遡る。

『項羽に転生することになったわ』

「項羽!」

 項羽というと、その死に様から個人として無茶苦茶強そうに感じる。正直、中国史で個人最強は誰かと聞かれると呂布ではなく項羽というイメージだ。

「項羽だったら、ひたすら鍛えたら北斗神拳とか亀仙流とかそんなものでも使えそうな気がする。よし、俺は個人の武勇だけで中国を支配するぞ。陰険なやり口や政治工作とは無縁のスカッとした生涯を送るんだ!」

『はぁ......。まあ、勝手にやってちょうだい』



 かくして、俺は項羽に転生し、ひたすらに武道を極めた。

 その結果がこれである。


 やはり本人も言っていた通り、剣術など頼りにならない、兵法を極めよということのようだ。

『スカッとした生涯だったわね』

「全然、スカッとしていねえよ!」

 ゲームを楽しんでいても、負けてしまっては何ともならない。

 これが劉邦に負けたのならあきらめも付くが、秦に負けたとなると俺は完全に間違えていたことになる。


「もう一回やり直させてくれ! 今度は真面目にやるから」

『ということは、散々文句言っていた政治工作とか陰険なやり口にたよるわけね』

「くっ、まあ、そういうことになるが、とにかくせめて劉邦との決戦にもちこむまでは引くわけにはいかん!」


「親にゲームを止められそうになって、必死に抗弁している子供のようですわ」

「うるせーわ! 郁子! 項羽の人生にはな、ロマンがあるんだよ! 十代で中国の支配者に上り詰めたのは項羽と李世民しかいないんだぞ」

『はぁ、もう一回だけよ』

 かくして、俺は再度項羽の人生に挑むことになった。

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