第52話 ガリレオ・ガリレイに転生しました・中編


 かくして、俺はガリレオ・ガリレイに転生した。


 魑魅魍魎ちみもうりょうとするローマ世界に科学を持ち込むというのは、正直かなり難事のような感がある。正直、幾つかの資料コピーは持ち込んできているが、作戦はほとんど決まっていない。

 ただし、俺がガリレオ本人と違うのは、キリスト教諸派に対する知識があることだ。


 カトリックを認めさせるのに対して、正面からカトリックだけを相手にするのは危険だ。

 だから、場合によってはプロテスタント、あるいはイギリス国教会と言った地域を動かすことも考えなければならない。外圧というと語弊があるが、「新教の方が開明的だよね。カトリックは旧教だよね」という方向にもっていけば、危機感を抱くかもしれない。

 まあ、このあたりはまだ分からないが。


 とりあえず転生して辟易したのは金がないことだ。


 今までは有力者の転生が多かったから、生活費に支障を来したことはあまりない。明智光秀がそうかもしれないが、ガリレオの場合、家族の生活費まで工面しなければならないからしんどい。


 だから仕事も必死にしなければならない。

 これでは、とてもではないが地動説のための運動をすることはできない。


 ……なんちゃって。

 この展開は織り込み済みだ。

 ガリレオの失敗は、最前線まで出てしまったことだ。

 最前線に出なければいいのだ。つまり、代わりに矢面に立つ者を用意すれば良い。


 そんな奴がいるのかって?

 いるのだ。フランスにルネ・デカルトという奴が。「我思う、故に我あり」のデカルトだ。


 デカルトは『宇宙論』という著作を出版するつもりだったらしい。

 しかし、俺が異端審問で叩かれて、地動説を放棄したことでブルって出版を取りやめたという。

 ま、史実でもし出版強行していたら、デカルト本人もやばいし、「まだ地動説論者がおるから、ガリレオはやっぱり死刑にしよう」ととばっちりを受けたかもしれないから、全く賢い考えではあるのだが。


 ま、それはさておき。

 史実では俺が先行したせいで、デカルトは得をした。

 今回はデカルトを先行させて、俺は後から様子見をするのだ。


 地動説というと、俺とコペルニクスのイメージだが、最初の提唱者は2000年以上昔のアリスタルコスだし、別に他に研究していたものもいる。

 俺が勝たなければならないわけではない。

 俺は活躍しなくてもいい。チーム地動説が勝利すればいいのだ。


 ただ、そのためにはデカルトに「地動説は皆に受け入れられる!」という確信を与えてやらないといけない。



 さて、ここで問題だが、地動説が受け入れられにくいのは何故か?


 答えは簡単で、実感することができないからだ。日々の生活で地球が自転しているぜというのを体感することはない。

 もちろん、数学能力があって、計算をしていけばそうしたことは分かっていくのであるが、全員が全員そうした計算をできるわけではない。作者自身もそうだが、実際に引力やら何やらの数式に乗っ取って計算を始めて、「おぉ、確かにこれは地動説を採らなければならないな」とまで理解した人はそうそういないのではないか。


 となると、攻略法としては。

①国民の大半が地動説を当たり前と思うくらいに数学レベルを上げる。

②誰にでも分かる方法で地動説を証明する。


 ①が出来れば誰も苦労はしない。21世紀になってもどの国も成し遂げられていないのだからな。単純に不可能だ。

 だから、②だ。


 これは俺の時代にはなかったが、19世紀にフーコーが実現した。

 19世紀に実現したならこの時代は無理じゃね? と思われるかもしれないが、フーコーの実験は高度な技術が必要になるものではない。やろうと思えばこの時代でも出来るものだ。

 だから、これをデカルトに教えてやるのだ。


 えっ、そんな証明理論があるなら自分でやればいいのではないか、だと?

 馬鹿を言うな、俺は忙しい。

 家族を養わなければならないんだ。


 決してビビっているわけではないからな!

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