第50話 霊帝に転生しました・結末編
光和7年。
俺は、黄巾の乱に先駆けて、宦官達を討滅することに成功した。
そして、この2年間、商人となって販売してきた官職を袁紹、曹操、劉備、孫堅らに分け与えた。
もちろん、いきなり丞相などの要職は渡せないが、今後の活躍に応じて昇格させていく予定だ。
そのうえで、俺は太平道のリーダー・張角に自重するよう手紙を送った。『おまえが蜂起の予定を立てていることは知っている。馬鹿なことをするな』と。
史実の張角は発覚していることを承知して反乱を決行したが、今の俺の陣容は充実している。
もし、反乱を起こさないのならそれでもいいし、反乱が起きるのなら彼らが更に活躍して出世する。どちらに転んでも、俺にとっては悪い話ではない。
一ヶ月して、返書があった。『恐れ入りました』と書かれてある。
どうやら、黄巾の乱そのものを避けることができたらしい。これで宮廷の出費は大分避けられる。
「戸籍の人口を見よ。二百年前の良き時代に比べて、今の人口は三分の一に過ぎない。賦役を軽くして、民を増やすのだ」
人口数、三国時代はその前の時代に比べて激減している。
戦乱で減ったというのももちろんあるし、戦乱続きだから税金が重くなったので逃げてしまっているということもある。
このままではいけない。
国民の少ない国に未来はない。
一時的に耐えることになっても、税金を軽くして民衆に戻ってきてもらったほうがいい。
極論、人口が倍になれば、一人ひとりは半分の納税でもいいのだからな。
宦官達を全滅させたことと、黄巾の乱を避けられて出費もなしに済んだので余裕は出てきた。今こそ減税の時だろう。
二年ほど経ち、成果は上々のようだ。
「この調子であと二年待てば、民は苦しむことなく余裕を持つと思います。結果として、国庫に入る税金は増えますな」
曹操の報告に俺は満足した。
「曹操よ、より国家が安定すればという条件はつくが、将来的には試験選抜で人材を確保しようと思っている」
「何と!? 試験で採用?」
科挙制度を先取りだ。
「そうだ。身分にとらわれず、優秀な人材を抱える仕組みを作るのだ」
「素晴らしい。素晴らしいことでございます」
曹操は俺の想像以上に感激している。
宦官の孫と揶揄されていたことが影響しているのかもしれないな。
翌日、俺は宮殿を散歩していた。
「昂よ」
控え室から曹操の声が聞こえてきた。
曹昂というのは、曹操の長男だ。史実では群雄割拠時代に陰謀に巻き込まれて典韋とともに戦死している。
「昂よ。わしはかつて人相見にこう言われた。『おまえは治世の能臣、乱世の奸臣である』と。当時は混乱した時代だ。わしは自分が乱世にはばたくのではないかと想像した」
「......」
「だが、時代は変わった。今は陛下がいる。乱世などありえない。わしは治世の能臣として人生を終えることになる。これほど素晴らしいことはない」
「私も陛下なら漢王室を立て直すと思っております」
「......もし、わしが陛下の恩義を忘れて、奸臣たらんとしたときは、この剣でわしを殺せ」
「......父上?」
「わしは陛下の無能の臣だったと呼ばれるのは耐えられる。しかし、不忠の臣と後世に蔑まれるのは耐えられない。遠慮は無用、わしが不忠たると思った時には殺せ!」
「は、ははっ!」
曹操め、そこまで俺に従ってくれていたとは。
ちくしょう、泣かせるなよ、問題児のくせに......。
ま、色々頑張って国土も朝廷も大きく改善した。
ここまでやれば、漢室が滅ぶことはないだろう。
「いえ、まだ危険がありまする。後継者がいなければ」
「おお、そうか」
一応、協は作っているから、最低限の後継者はいるのだが、宮廷は軌道に乗っているし、俺はお楽しみタイムといこうか!
「〜♪ 子づくり、子づくり、楽しいな♪」
俺は後宮を歩いていた。
今日は誰と楽しもうかな、そう思った時。
「覚悟!!」
という声とともに腹のあたりに熱い衝撃が走った。
い、一体何が......?
「よくも、わしらを取り立ててくれなかったな!」
睨みつける顔は。
「おまえは、何進......」
そう。
袁紹路線に切り替えたため、お役御免として相手にしなかった何進とその妹だった。
「肉屋と思って、馬鹿にしおって! 思い知ったか!」
そう言って、奴は腹にもう一度肉切り包丁を突き立てた後、自らの首をはねた。
ほぼ同時に俺は地面に倒れ、意識を失った。
"女神の総括"
『まさか何進に暗殺されるとはねぇ』
「あの野郎......、史実では失敗したくせに、何で俺がうまくやったときだけ成功させるんだよ」
『天成が後宮でのお楽しみのことばかり考えて、警戒心ゼロで歩いていたからじゃないの?』
「く、くっそぅ......」
『で、結局、劉協ではどうにもならずに曹操が権力掌握してしまったわねぇ』
「しかも、俺が劉備と孫堅を同陣営に引き入れたから、労せず全国統一のまま魏を建国してしまったなぁ」
『でも良かったじゃない。諸葛亮と司馬懿に禅譲をもちかけてきた時に「先帝がいてくれたから今のわしがある。息子達は好きにすればいいが、わしは漢の臣下として、先帝の忠臣として死ぬのだ」って史実以上に義理を果たしてくれたわけだし、二代の曹昂も遠慮して、三代目の曹丕が簒奪するまで40年くらい待ってくれたわけだから』
「あまりうれしくないなぁ......」
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