第49話 霊帝に転生しました・後編


 袁紹。


 名門・袁家の後継者的存在だ。

 俺のような実力のない皇帝の後見人になりたがる奴はそう多くない。

 ありうるとすれば、状況が全く分かっていない奴か、あるいは分かっているけど自分ならそれを乗り越えられると勘違いしている奴だ。


 袁紹は間違いなく後者だ。自分は名門だから、必ずいい地位につける、そう思いこんでいる。そこに根拠はないから基本的にはダメな奴だ。だが、名門出身だから現在の問題点は把握している。

 そういう点では何進よりは頼りになる。


 俺は袁紹を引き込むことにした。商人を装って近づく。

「官職いらんかね~? 安いよ、安いよ~」

「いらんわ! って、陛下?」

「フフフフ、袁紹よ。おまえが期待に応えるなら、ここにある官職は全て大安売りだぞ?」

「期待に応える?」

「分かっているだろう。朕が期待しているものくらいは……」

 袁紹も理解したのだろう。唾を飲み込んだ。


 それから三か月、俺達は商人ごっこをやりつつ、宦官排斥計画を練り合った。

 そうこうしているうちに袁紹が「頼りになる友人を連れてくる」とか言い出した。

 頼りになる友人、まさか……

「袁本初殿の友人で、曹操と申します」

 連れられてきたちっこい男がそう自己紹介をした。


 あぁ、やっぱりこいつかよ。


 それは曹操は頼りになる。

 そんなことは三国志を少しでもかじれば誰でも分かる。

 しかし、こいつに頼ると、全部持っていかれてしまうかもしれない。それが怖い。


 キュピーン!


 その時、俺の脳裏に閃くものがあった!

 いや、違う!

 曹操を使いこなす手段はある!


「曹操よ。おまえは本当に頼れる奴だ。朕は期待している」

「ははっ、それがし、悪知恵は回るとよく言われています」

「うむうむ」

 俺は満足げに頷く。

「そこがちょっと問題でな。おまえは有能なのだが、悪知恵が回るから嫌う者もいる」

「……仕方ありません」

「うむ。おまえのことを嫌っている者も多いから、おまえを直接優遇すると波風が立つ。しかし、朕がおまえに期待しているのは間違いない。だから、おまえへの期待賃として父親を取り立ててやろう」

 曹操は身を乗り出してきた。

「何ですと!? 父上を?」


 曹操が出世した後、父親を招こうとしたことはよく知られている。その際不幸があって、父・曹嵩は徐州で殺された。

 この時、曹操の激怒ぶりはすさまじかった。

「ジョシュウ! ミナゴロシ!」

 とばかりに報復を果たそうとしていた。

 この凄まじい報復活動を見て、諸葛亮は「曹操はあかん」と思ったとも言われている。


 このことから分かるだろう!


 曹操はファザコンだったのだ!


 曹嵩を取り立てて、「わしは曹操のおかげでこんな官位を貰えた」と思わせれば、曹操は意気に感じるのだ!


 キュピーン!


 その時、またまた俺に天啓走る!


 この際、幽州で暇そうにしている劉備も適当に取り立ててしまおう!

 奴は漢王室の末裔を自称しているから、皇帝の俺には逆らえないはずだ。

 つまり、劉備を抱えれば、自動的に関羽と張飛、あとおまけの簡雍もつれてくることができるのだ!


 この頃、組織されてきた十常侍の連中は当然、主な官職は自分達の汚職用に取っている。しかし、全部が全部を管理することはできない。空いている仕事だってある。

 それに俺は商人ごっこを続けていて、金にうるさい皇帝という印象も与えている。稼いだ金の一部を宦官共に与えてやれば、「陛下の商人ごっこのためにある程度の官職は使われても仕方ない」と考えるだろう。


 俺の勝ち筋が見えてきた!


 俺は曹嵩を取り立てて曹操の忠誠心をゲットし、幽州から劉備を連れてきてその忠誠心もゲットした。

 ここまで来たら、孫堅も取り込んでしまおう、三国独り占めだ!

 俺は孫堅を呼び出して「こんなものしか与えられるものはないが」と玉璽を渡してやった。孫堅は一瞬茫然とした後、更に結構長考して「従います」とひれ伏した。


 ちょっと待ってくれ。


 俺、じゃなくて朕が自分で言うのも何だが、凄い陣容揃えてないか?


「兵士などいらん。お前達の手で宦官を討滅せよ!」

 俺は絶対の自信をもって宣言した。


 手持ちの札には関羽がいる、張飛がいる、夏侯惇と夏侯淵、曹仁に曹洪がいる。更に孫堅、程普、黄蓋に顔良と文醜がいる。

 こいつらだけで万の兵士に匹敵する。

 宦官は簡単に討滅した。


 黄巾の乱はまだ起きてもいない。

 俺の勝利だ!



"女神の一言"

『最終回じゃないぞよ~。もうちょっとだけ続くのです』



 おい、ちょっと待て。

 何で続くんだ。

 俺の勝ちだろ!?

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