第48話 霊帝に転生しました・中編
かくして、俺は数冊の攻略本を持ち霊帝に転生した。
……はずだったのだが。
俺の周囲には誰もいない。
皇太子として期待されるような存在ではなかったようだ。
というより、東漢は皇帝の早世が多すぎる。
俺の前代の桓帝は36歳で死ぬようだが、これでも長い方だ。
その前、二人の皇帝はどちらも10歳にもならずに死んでいるからな。
それはまあ、宦官や外戚が力を振るうだろうよ。
で、まあ、少し前には梁冀という最悪の外戚がいて、やりたい放題していた。
朝廷の中はこいつが選んだ奴ばかりになったらしい。
その反省から、ここしばらくは宦官が優勢だ。
まあ、外戚と比べれば、宦官は子供を作れないから一族が出来ない。だからまだマシじゃないかとなるが、そうとも言えない。
宦官にも兄弟姉妹はいるから一族は存在しているし、養子縁組してしまう方法もある。曹操の父は、曹騰という有力宦官の養子だったのは有名な話だな。
今風に言うと、二大政党制みたいなものかね。
外戚と宦官が綱引きを続けている。
でもって、皇帝となる俺だ。
今は宦官が有力だ。
そんな中で皇帝に選ばれるくらいだから、俺の外戚はたいしたことがない。
宦官を倒すには外戚パワーが必要だが、それがない。
だから宦官には勝てない。
だから俺は皇帝になっても何もできない。
Q.E.D.
証明完了だ。
……分かっている。
それではダメだ。
諦めたらそこで試合終了ですよ、とは安西先生も言っていることだ。
俺は政治がしたい。
……政治がしたいです!
宦官に勝つための方法とは何か。
まずは強い外戚を作る。
史実の霊帝が頼ったのは何進だ。
威勢のいい肉屋のあんちゃんだったようだが、残念ながら豪快な肉切り包丁を振り回すだけの男だったようだ。
魑魅魍魎とした宦官の諜報の網をかいくぐるには、薄くスライスした刺身のような繊細な腕前が必要となるが、そんなところをバッサバッサと斬ろうとして失敗して死んでしまうことになる。
残念ながら、彼は不適格だったのだろう。
とはいえ、他の誰ならいいのかというと微妙だ。
緻密な頭脳を持つ者は、わざわざ宦官と戦おうとはしないだろう。何進が俺に協力したのは、豪快でオツムの足りないあんちゃんだったからだ、とも言える。
とりあえず、何皇后は怖そうな人なので、一旦スルーするとしよう。
次に、誰か後見人を作ることだが、これは宦官を倒した後、後見人の操り人形となる恐れがある。
それこそ、董卓なんかがそれだよな。
一応、俺が長生きするという前提で、董卓に支配させ、董卓を呂布に暗殺させ、そのうえで呂布を追い払い、董卓部下の内乱を利用した挙句に浮上するという手もあるは、ある。
ただ、いくら何でも耐える時間が長すぎる。
献帝みたいな少年ならまだ子供だからで許されるだろうが、そこまで耐えれば俺は40代になっている。
使えないアラフォー皇帝、人々の俺を見る目はそれで固定されるだろう。
残念なアラフォーが転生して逆転する話は多いようだが、転生した先で使えないアラフォーになってしまうのはあまりに悲しい。
だから、耐える路線は無しだ。
適当な外戚が来る可能性は低いだろうから、後見人路線で行くしかないが、後見人は宦官を倒せるくらいには有能だけど、俺がつけ入る隙があるくらいには残念な男である必要がある。
そんな都合のいい存在がいるだろうか。
俺は商人の真似事をしながら都を練り歩く。
霊帝は商人の真似事をしていて「皇帝なのに情けない」と非難されていたが、ひょっとしたら、街を歩いて頼れる者がいないか探していたのかもしれない。
そんな都合よく見つかるはずがないよという批判はあるかもしれない。しかし、動いていれば限りなく小さい数字でも可能性はある。動くことなく宮殿に閉じこもっていれば可能性はゼロだ。だから動くしかない。
しかし、一年くらい歩いていても誰も見つからない。
やはりそんな甘いものではないらしい。
そう考えた一年と一日目。
俺は都で喧嘩している二人組を見た。
「妾の子が何を言うか!」
「血筋が遠いくせにひがむんじゃねーよ!」
「袁紹と袁術の奴、またケンカしているよ……」
周囲からヒソヒソと声が飛ぶ。
ちょうどいい奴がいたじゃないか。
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