第46話 ジャンヌ・ド・ベルヴィル(の親友)に転生しました・後編

 ジャンヌの復讐開始から三年が経ちました。


「フランス、オブツ! ショウドク!」

「アハハハハ! フランス人がゴミのようですわ~!」


 海賊となったワタクシ達は連戦連勝!

 あまりの強さにイングランド王からも表彰され、船を五隻もらいました。

 活動範囲が広がり、ゲリラ的に移動して強襲からの略奪という手段も取れるようになりました。


 えっ、おまえはいつの間にノリノリになっているのか、ですって?

 郷に入れば郷に従え、という言葉を存じないのですか?

 親友であるジャンヌを元に戻すことができない以上、共に狂うのが親友たるものの定めですわ。


 それにあの断末魔の叫び声……聞いているうちにゾクゾクしてまいりましたわ。

 また聞きたい、もう一度聞きたい、そう思えてきたのです。


「ジャンヌ、これは火薬というもので、非常に使えるものですわ」

「……火薬?」


 歴史上、火器は13世紀頃には登場していましたが、この頃はまだ決定的な力がなかったことと、騎士階級の反発もありおおっぴらに取り入れられるには至りませんでした。

 ワタクシ達は別ですわ。

 やはり女は体力的に限界もありますし、それにてっとりばやく多数のフランス人を始末するには火薬は便利です。

 それに、火器が広まれば広まるほど、貴族の没落も早くなっていくのです!

 つまり、フランスの社会体制を崩壊させることができるのですわ!

 社会体制をひっくり返す!

 これほど素晴らしい復讐はありませんことよ!


 そんなワタクシ達の元に朗報が届きました。


 憎きフランス国王フィリップ6世が軍を編成し、クレシーに向かうというのです!


 おぉ、クレシーで戦う!

 これはワタクシ知っていますわよ。クレシーでイングランドとフランスが戦い、イングランドのロングボウ戦術の前にフランスがコテンパンに叩きのめされるのですわ!


 ワタクシ、百年戦争のスタート時にいたのですね。


 ククク、ウフフフフ……。

 戦争が百年も続くなんてあってはなりませんわ!

 愛と平和のために、三年で終わらせて見せますことよ!


 ワタクシ達はクレシーからパリへの逃走ルートに潜むことにいたしました。

 ここで戦いから逃げてくるフランス軍の行く手を阻み、全滅させてやるのですわ。

「ハヤク、コロシタイ!」

 ジャンヌはフランス軍を見ると撃ってかかりたくてならないようですが、急いては事を仕損じます。

「ここは我慢ですわ。後で思う存分やりなさい。待てば皆殺しにできますが、今すぐ襲えば半分も殺せません。どちらがいいのです?」

「ウゥゥ……、フランス、ミナゴロシ……。ワタシ、ガマン」

 うまく行きましたわ。


 待つこと一日。

「来ましたわ!」

 フランス軍がボロボロになって戻ってきます。

「敵はボロボロですわよ! 今こそ仇討ちの時です!」

 兵士達が一斉斉射します。

 クレシーの戦いで逃れてきたフランス軍は文字通り全滅いたしました。

 完全勝利です。ワタクシ達は200年以上早く、火器を使いこなしたのですわ。


「ウウ、ジュウ。ジャドウ……」

 ただ、ジャンヌは不満なようです。

 一斉掃射で憎きフランソワを戦死させたのが気に食わないようです。

 自らの手で直接首を刎ねたかったのでしょう。

 ただ、それは贅沢というものです。

「ジャンヌ、まずはパリを全滅させて、イングランド軍とともにフランスを我が物にしますわよ」

「……ウム、フランス、コロス!」


 ワタクシ達はパリを廃墟として、イングランド軍を待ちました。

 イングランド軍は翌月、やってきましたが。

 イングランド王エドワード3世は何故か怒っています。

「何てことをしてくれたんだ! お前達!」

「陛下、どうされたのですか? 私達はフランス軍を全滅させたのですよ?」

 フランス軍がいないので元に戻ったジャンヌが首を傾げながら功績をアピールしますが……

「全滅させたから、捕虜の身代金が受け取れないじゃないか! 軍費はタダではないのだぞ!」


 なるほど。

 クレシーで貴族達何人かを捕虜として獲り、身代金を取る予定だったのですが、ワタクシ達がフランス軍の残りを全滅させてしまいました。だから、身代金が取れなくて怒っているわけですわね。

 フランスの領土をがっぽり取れるからいいじゃないか、と思うかもしれませんが、それはど素人の考えです。イングランドも火薬庫のようなところですので、長く留守にしていると反乱などが起きるのです。

 ですので、さっさと身代金をせしめて帰りたかったが、ワタクシ達が邪魔をしてしまった。

 ううむ、復讐をやり過ぎるのはよくない、ということですわね。


「どうしてくれるんだ! お前達!」

 と、エドワード3世がジャンヌに手をあげようとしているのを見た、一部の兵士が激高いたしました! 「知ったことかよ! 俺達はフランス軍を全滅させたんだ!」と彼らは銃を乱射しました!

「ぐはっ!」


 ああ、何ということでしょう!

 エドワード3世とエドワード黒太子も死んでしまいました!


 フランスもイングランドも無政府状態になってしまいました!


 このイカレた世界へようこそ、ですわ!



"女神の総括"

『何がイカレた世界へようこそ、だ! フランスどころかイングランドまで全滅させてしまって、何やってんのよー!』

「知ったことではありませんわ! ワタクシを騙して転生させた報いです!」

『しかも散々かき回すだけかき回しておいて、自分達はさっさとナントを占領しペイ・ド・ラ・ロワール(ジャンヌとアンヌの故郷)で平穏に暮らしおってからに……』

「乱世に首を突っ込むなど悪女のやることではありませんわ」

『戦場で敵味方全滅させる悪女もおらんわ』

「まあ、でも、イングランド貴族もフランス貴族もしぶといことこの上ありませんから、これだけかき乱して分裂させまくっても、いずれは帳尻が合うでしょう。ワタクシ達は火器をいち早く使いこなし、歴史にも名を残せたので満足ですわ」

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