第43話 【番外編】世界三大提督裁判・後編
『それでは検察側証人、発言を認めます』
裁判長の言葉に、まずは李舜臣が立つ。
いや、だから、あんたは申請されてないんでは。
「先ほど、検察官も言っていた通り、被告人は軍の全体功績を自分のものとしております。本人が勝利にどのように貢献したのかはっきりしません。良い提督であるというのならともかく、これを三大提督としてしまうのは不都合です」
「異議あり!」
『弁護人、異議を認めます』
「さっきも言ったことに加えて、そもそも、それをあんたにだけは言われたくないよ。あんたもどちらかというと、李氏朝鮮が何とか日本を追い返したという事実と、李氏朝鮮の中ではまあまあ活躍した方だから全功績くっついた感じじゃないか。しかも日本の艦隊数水増ししてそうだし。李氏は証人として不適切です!」
「何だとー!?」
『あー! 法廷で喧嘩しない!』
続いて、テミストクレスが立った。
「被告人は人間としての生き様にも問題があります」
『と言いますと?』
「被告人は数々の功績におごり、上層部に嫌われました。少女に暴行を働いたことでエカチェリーナ女帝に嫌われ、晩年はロシア軍内部で働くことを認められませんでした。このような人間性に問題のある人物が三大提督を名乗るのは問題があります」
「異議あり!」
『……認めます』
「それを言うと、ネルソンだって不倫していたから不適当ということになるぞ。大体、あんただってサラミスの功績におごってアテネ政治を私物化しようとして、結局陶片追放を食らったじゃないか! テミストクレス氏も証人として不適切です!」
「何だとー!?」
『だから法廷内で暴れるんじゃないー!』
最後に鄭和が立った。
「私こそが三番目にふさわしいと思うんです」
『その理屈は?』
「ネルソンは西洋、東郷は東洋、私はイスラム系ですから中東を代表する存在です。それに私は宦官です。三大提督を選ぶ以上、多様性を考慮しなければいけません。私こそがそれを体現すると考えております」
「異議あり!」
『……どうぞ』
「イスラムなのは確かだけど、中国生まれの中国育ちの中国で死んだ人間だから完全東洋だろ! JPJの方がアメリカだから多様性に資するわ。あと、性別の多様性も重要だが、宦官作るのは犯罪だから! 犯罪を認めるのはダメだ! 裁判長、鄭氏も証人として不適格です!」
「何をー!?」
『いい加減にしろー!』
どうにか検察側証人を論破? した俺は裁判長に申請する。
「裁判長、弁護側も証人を連れてきています」
『えっと、二人?』
「はい」
『どうぞ』
俺は二人の証人を連れてきた。
「私は丈・売電と言います。アメリカを代表する者として、私は被告人が世界三大提督にふさわしいと考えます。何故なら、アメリカは今、世界の海を支配しております。世界最強の海軍の礎として彼が存在するからです」
『あ~、結果的に今、アメリカは最強。それを作った貢献も考えろってことね』
「異議あり! 未来の結果を過去の評価に投影するのは不当ですわ! 売電は証人として不適切です!」
「二人目の証人裏で見る・風珍だ。少し前までアメリカと世界を二分していたロシアも、被告人は三大提督にふさわしいと思う。彼の功績があるからこそロシアは黒海を保有する正当性を見出しうるのだからね」
「異議あり! その見解を認めていては、西側諸国の結束が乱れてしまいますわ! 風珍も証人として不適切です!」
結局、証人は全員不適切として退けられてしまった。
『……最後に被告人、改めて言うことはありますか?』
「うーん、未来の世界では俺のことは色々評価されているみたいなんだけど、生前の俺は報われなかったからなぁ。生きている時に10分の1でもいいからもらえたらなぁというのはあるかなぁ。三大提督かどうかは俺の死んだ後のことだから、どうでもいいけど、銅像とかを見ていると、ちょっと悔しくなるね」
『なるほど。その功績ほど生前は報われなかったという申し訳なさも評価につながっているのかもしれませんね』
あるなぁ。
生前不遇だった人間に対しては、何となく加点されるものだ。
例えばジャンヌ・ダルクとかもそういうのでかなり脚色されている。
『ただ、婦女暴行はいけません』
「うっす……」
『……判決を下します。被告人は無罪。ジョン・ポール・ジョーンズが世界三大提督であることは妥当です』
傍聴席から喚声があがった。売電と風珍が握手をしている。
『17世紀や18世紀にかけて海軍は陸軍より階級が低いことも多く、評価が反映されづらかったことがあります。そんな中で二か国の海軍で要職に就き、具体的な功績を見出しづらいといってもアメリカ独立、ロシアの黒海進出に貢献した手腕を無視することはできません。また、ネルソンの決戦主義、東郷の長期在籍による影響力は後にそれぞれの海軍にマイナス効果をもたらしましたが、ジョーンズにはそのようなマイナス材料がありません。これらを総合的に勘案してジョーンズの評価は妥当であると判決します』
「これは政治に阿った不当判決ですわ! 検察は全く受け入れることができません!」
『検察官、静粛に』
「ワタクシには見えますわ! 今のまま米中二極化が続けば、いつの間にかしれっと東郷が鄭和に入れ替わっている! そんな未来が!」
「いや、鄭和はないんじゃないか?」
「何故ですの?」
「いや、日本よりLGBTに厳しい中国で、宦官の鄭和を全面的に評価するのはキツいだろ」
「……それなら鄭成功ですの?」
「そっちは台湾だからなぁ。って、おまえの方がよっぽど政治的なことを言っているじゃねえか!」
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