第42話 【番外編】世界三大提督裁判・中編

『それでは冒頭陳述から入ります。検察官』


「分かりましたわ! 被告人ジョン・ポール・ジョーンズなる男は1747年にスコットランド南部で生まれました。13歳の時に船員として働くこととなり、アメリカ・ヴァージニア州に渡りましたわ。その後、アメリカ近海やカリブ海を中心に海の仕事をしておりました」


 当時、まだアメリカはイギリスの植民地だから、活動範囲は広いが、出稼ぎみたいな扱いだ。


「その後、13植民地の海軍に入り、その流れでアメリカ独立戦争でもアメリカ海軍側で参加いたしました。この戦いでジョーンズは優勢だったイギリス海軍相手に見事な立ち回りを演じ、独立に貢献いたしました。その後は、先程被告人も言っていたようにロシアに行き、ここでも黒海に進出するなど活躍しましたわ。死んだのは1792年、パリでですわ」


『弁護人、何か言うことは?』


 ここでは、ないな。

「ありません。検察官の言う通りです」


『それでは、立証手続に入りたいと思います。まずは検察官から』


「ジョン・ポール・ジョーンズは先程の冒頭陳述の通り、優秀な海軍提督であることは間違いありません。しかし、世界三大提督を名乗るのはおこがましいですわ」

 検察官はそう言って、被告人を指さした。

「まず、名前自体がいただけません。今の人間が『ジョン・ポール・ジョーンズ』と聞けば、全員、レッドツェッペリンの同名の人物を思い浮かべますわ!」

「待て! 待て! 待て!」

 俺はあまりの傲慢理論に立ち上がって異議を述べた。

『……弁護人、異議を認めます』

「レッドツェッペリンの方は、20世紀だぞ! 被告人が名前をパクッたわけではない! 後からやってきて勝手に同じ名前を名乗った人物が有名になっただけだ! あと、レッドツェッペリンのジョーンズにはジョンジーっていう別の呼び名があるから、同一人物と間違えられることもほとんどない!」

『ふむ……』

「確かに被告人がパクったわけではありませんわ。しかし、後から来たジョンジーのせいで被告人が有名になったのも間違いない話ですわ。ジョンジーを検索しようとした61%の者がついでに被告人の記事を見つけたという調査があり、更にそのうち23%が被告人の記事にアクセスしていますわ。このうち97%は被告人のことを全く知らなかったにも関わらず、です!」

『世界三大提督は20世紀につくられたもので、その当時には被告人の名声はジョンジーの影響も受けて膨れ上がっていた、検察官はこう言いたいわけですね? 弁護人、これについてはどうですか?』


「確かにジョンジーのせいで有名になったのは認める」

 実際にグーグルさんやヤフーさんに聞いてみれば、事実であることはすぐに分かる。何もかも検察官に否定していては勝てない。


「更に被告人の実績には晴れ晴れしさがありません! ネルソンの『私は義務を果たした』や艦隊決戦主義、東郷の『本日天気晴朗なれども波高し』、『興国の荒廃この一戦にあり』やトーゴーターンのような心躍る逸話が被告人にはありませんわ!」

『確かに、どこそこにいたとか何をしていたという話はありますが、被告人独自の戦いのような話は少ないですね。弁護人、何かありますか?』

「確かに地味なのは認める。しかし、それは偉大さを損ねるわけではない! 野球で言うなら森・西武や落合・竜! サッカーで言うなら強かった頃の鹿島アントラーズ! 彼らは派手ではなく嫌われもしたが、その偉大さと強さについてケチをつけることはできない!」

『確かに』

 お、検察官が「ぐぬぬぅ、天成のくせに」と歯噛みしているぞ。

 天成のくせに、っていうのは何なんだよ。


「歴史的な意義という点でも疑義があります! ワタクシは、被告人より三大提督にふさわしいと思う人物を少なくとも二人は挙げられますわ!」

『ほう、それは?』

「テミストクレスと鄭和ですわ! 前者はペルシアに飲まれようとしていたギリシア世界を救い、後者は初の大航海を果たしたという実績があります! これと比較すると被告人の活躍は歴史的な意義に欠けると言わざるを得ません! 裁判官! ワタクシは証人として、この二名を呼びたいと思います!」

『あれ?』

 裁判官が証人席を見て、首をかしげた。

『あそこに李舜臣もいるけど?』

 あ、確かに韓国が猛プッシュしている李舜臣がいる。

 証人申請していないのに来ているのか。


「李舜臣の功績はたいしたものですが、正直、秀吉海軍がどこまで強かったか疑問ですわ。中国まで飲み込めそうなものを撃退したのなら凄いのでしょうが……」

「俺も検察官に同意」

「弁護人と同様で、被告人と李舜臣のトップ10入りには疑義を呈しませんが、三大提督は過大評価ですわ」

「勝手に人の順位まで決めるな! その発言には大いに異議あり!」



後編に続く。

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