第35話 エカチェリーナ2世に転生しました・中編


 ドイツ貴族ゾフィー・アウグステに生まれたワタクシは、ロシア皇太子ピョートルと婚約してサンクト・ペテルブルクに渡りました。


 ワタクシはドイツ語とフランス語には堪能でしたが、必死にロシア語も勉強いたします。

 その傍らで……

「バババババ! ヒュー、ドカーン! 『国王様、敵陣地を突破しました!』」


 この、軍隊のおもちゃで遊んでいるデッカイ幼児がワタクシの夫であるピョートルですわ。

 プロイセン王フリードリヒ2世に心酔し、軍隊用語やら細かいスペックを覚えること以外には脳のメモリが働かない残念な男です。


 ピョートルとは全く性格も合わないので、お互い浮気に走ることになります。

 とりあえず生まれたパーヴェルですが、父親は誰なのでしょう? はっきり分かりませんわ。

 育児も面倒なので、女帝(エリザヴェータ)に預けることにしますわ。ワタクシは軍や政治の勉強をしなければなりません。


『それだよ! それ!』


 あ、則天武后さんからの声が聞こえてまいりましたわ。


『女帝となるに際して、子供を愛したらダメだと思うんだ。私もライバル后妃を蹴落とすために自分の子供を一人殺したわけだしね』


 あ、いや……。

 ワタクシは、単に育児が面倒だと思っただけで、権勢のために子供を殺すなんてことは思っていないのですが……。

 ただ、子に関わり過ぎると優れた女帝にはなれませんわね。


女帝を狙え①:子供を愛しすぎないこと。女帝は子供ではなく帝王学に時間を費やすべし


 というか、パーヴェルは憎々しさがピョートルにそっくりですわ。父親は違うと思うのですが、SSRを一発抜きくらいの確率でピョートルが父親なのでしょうか。



 さてさて、女帝エリザヴェータが健在ですので、ワタクシの青春は浮気と帝王学に明け暮れることになります。ピョートルも浮気しておりますので、お互い様ですわ。

 そんなワタクシのサロンにとんでもない女が現れました。

「この後二十年のヨーロッパは、自由と教育を重んじる国家が繁栄するものと考えております。そのために后妃様がなさるべきことはうんぬんかんぬん。あとは数学をもっと発展させるべきですね。私も幾何学には多少精通していますがうんぬんかんぬん」

 小難しいことを十か国語でペラペラと話すこの女。

 何とワタクシよりも一回り(12年)年下の17歳なのです!

 エカチェリーナ・ダーシュコワ公爵夫人、全くとんでもない女ですわ。

 しかし、ワタクシは妬みなどいたしません。

 ダーシュコワ公爵夫人は天才ですが、帝王ではありません。

 帝王たるワタクシとダーシュコワ公爵夫人は共存しなければならないのです。

 この天才を使いこなしてこそ、ワタクシは女帝になれるのです。


『そこも大切だね。私もそうだったけど、女帝になるに際して、有能な人間をどれだけ受け入れられるかが大切だ』


女帝を狙え②:自分より出来る奴を妬んではいけない。権力への障壁でないのなら、積極的に褒め称えるべき。


「このあたりは当たり前の話ではないかと思うのですが」

『だが、この当たり前の話ができない奴が本当に多いんだ』

「なるほど……」



 時が流れました。


 女帝エリザヴェータが急逝し、夫ピョートルがピョートル3世として即位しましたが、ロクなことをしません。

「余はフリードリヒ2世の大ファンだから、和平を結んで兵士を撤兵させるよ」

 ロシアはオーストリア、フランスと組んでプロイセンをボコボコにしていたのですが、一方的にプロイセンと仲直りして兵士を撤退させてしまいました(第35話:ブランデンブルクの奇跡)!


「あと、浮気しかしないエカチェリーナと離婚して、今、交際しているエリザヴェータ・ヴォロンツォヴァを皇后にするから」

 これまた予想通りと言いますか、ワタクシを追放して、浮気相手と再婚するなどと言いだしました。


 そんなことはさせませんわ!


 ピョートルがワタクシを追放する前に、クーデターを起こしてピョートルを追放するのです!


 ……と力強く言いたいところですが、ワタクシは現在、浮気相手の子供を妊娠中で動き回ることができません。

『だから言っただろう? 子供に愛着をもってはいけないんだよ』

 余計なお世話ですわ。


 ワタクシ自らは離宮でこっそり出産しなければいけません。

 ですので、その間頼りになるのは不倫相手のオルロフと。

「……エカチェリーナ様、内応を頼む手紙やら段取りを整えましたので、ここに決裁のサインだけ書いてください。サインくらいはさすがに書けますよね?」

 ダーシュコワ公爵夫人です。

 ダーシュコワの顔には「肝心な時に使えねーなぁ、こいつ」とありありと出ていますが、彼女が「でも、ピョートルはもっと使えねーからなぁ」と思っている限り、ワタクシの地位は安泰です。

「任せましたよ、ダーシュコワ夫人」


 ワタクシが出産を終える頃には、勝負はついていました。

 チートのダーシュコワ夫人のおかげで宮廷内は全員がワタクシの派閥につきました。

「皇妃様、いえ、女帝陛下、この馬に乗って近衛連隊のところまで行きましょう。完全に言いくるめてありますので、かっこいい啖呵を切っていただくだけです」

「色々とすみませんわね、ダーシュコワ」

「フッ、陛下に自由と教育の国を作り上げていただけるのなら、このくらいのことは造作もありません……」

 おぉぉ、おまえが主役かというくらいかっこいいですわ。

「あちらの男はグリゴリー・ポチョムキンといいますが、中々有能そうな男です。直接召し抱えられてはいかがでしょう?」


 おぉ、ポチョムキン!


 ワタクシのスタッフが揃ってまいりましたわね!

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