第32話 ムラト4世に転生しました・中編
※多少過激な表現が入っているのでご注意ください。
かくして、俺は17世紀のイスタンブールに転生した。
オスマンというと、兄弟殺しの伝統がある。新スルタンが即位すると、後々面倒を起こしそうな兄弟は全員殺しておこうというものだ。
ただ、少し前の時代から若年のスルタン即位が相次いだことで曖昧になっていた。
俺の場合もこれで助かった。
異母兄のオスマン2世が先に即位したが、即位した時に13歳だ。息子がいないし、出来たとしても幼少で死ぬかもしれない。後継者が確定していない以上弟も残しておくしかない。
そんな兄は政治改革をしようとしたが、抵抗勢力によって殺されてしまった。
この時、俺は11歳。
しかも、兄弟殺しには遭わなかったが、「反乱起こされると困るから」ということで政治教育などは受けていない。
ということで、しばらくの間叔父のムスタファが混乱収拾のために即位。
俺はその間、毎日16時間帝王教育を施されることになる。
母のキョセム・スルタンはオスマン史上最強レベルでハーレムを支配した女だ。
やることなすこと徹底している。
俺の前には超絶スパルタ教育が待っていた。
11歳にしてそれだけ勉強させられるのだ。当然、ストレスがすごいことになる。
なるほど、酒に走りたくなったのは分かるが、酒を飲むと待っているのは肝硬変による死だ。我慢しなければならない。
俺は毎晩、『煙草に死を。喫煙者に人権なし』と清書し続け、何とか耐えた。
かくして、俺は即位した。
兄は政治腐敗、軍の腐敗に嫌気が差して一気に改革をしようとして失敗した。
確かに腐敗に憤るのは分かる。しかし、「帝国に改革を!」なんて範囲が広すぎてピンと来ないのではないだろうか。
俺は違うぞ。
軍を前に、こう宣言した。
「アッラーはタバコを認めていない! タバコに死を!」
半分くらい反応した。反応の悪い奴を全員処刑して、次の日。
「アッラーはタバコを認めていない! タバコに死を!」
八割くらい反応した。反応の悪い奴を全員処刑して、次の日。
「アッラーはタバコを認めていない! タバコに死を!」
物凄く大音量で「スルタン万歳! タバコに死を!」という声が沸き上がった。地面が揺れるくらいだ。
これだ!
この一体感があれば、向かうところ敵なしだ。
かくして、軍を指揮してまずは中東地域へと向かった。
俺は嗅覚が敏感な者を多数採用した。彼らは数十キロ離れた敵軍から漂うタバコの臭いを敏感に察知する。
「スルタン! 敵軍の奴ら、タバコを吸っています!」
「聞いたか、皆の者! アッラーはタバコを認めていない! 背教者とタバコに死を!」
「オオォォォォ!」
イランを支配するサファヴィー朝はほんの10年ほど前まで、最強のシャー・アッバース1世が支配していた(数年前に病死した)。
首都イスファハンが『世界の半分』などと称えられていた時代だ。
今、俺達はサファヴィー朝の軍を散々に打ち破り、バグダッドを支配した。
見たか、これが使命に燃える者の強さだ。
神の戦士の強さだ。
会心の勝利に酒が進む。
「ハッ!」
まずい。調子に乗って酒を飲んでしまった。
このムラト4世には夢がある!
タバコのない世界を作るという夢が。
その前に、酒のために死ぬわけにはいかんのだ。
とにもかくにも、東方戦線は完全勝利に終わる。
一部の人間は俺のことを『東方のアレクサンドロス』と称えたようだが、『タバコと戦う神の戦士』と呼んでほしいものだ。
次は西方だ。
"女神の一言"
もちろん、多少誇張されています。
多少は……。
ちなみにこの話の中では触れられていませんが、コーヒーもほぼ同じレベルで嫌いだったと言われています。
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