第31話 煙の無い世界を求めて~ムラト4世に転生しました・前編
俺の名前は奥洲天成。
前世の俺は、ロクでなしの男女を両親として生まれた。
「お~、天成。おまえも一丁前の男になれよ。ふぅー」
「ふげぇ!? おぎゃあ! おぎゃあ!」
「ちょっとアンタ、いくら何でも乳児にタバコの煙吹きかけるのはどうかと思うわよ」
「ハァ? おまえ、何を言っているんだ? 0歳でタバコの味が分かるなんて最高だろ? 俺は14の時だぜ」
「それもそうか。じゃ、アタシもやろうっと」
「ふぎゃあ! ふぎゃあ!」
『……で、両親に散々タバコの煙をふきかけられて、三歳にしてがんで死んでしまった、と』
「タバコの煙に苦しんだ記憶しかない人生って何なんだ」
『この作品史上、一番悲惨な前世かもね』
「俺はタバコが憎い! タバコをこの世から消してやりたい!」
『おっ、そんな天成にいい転生先があるわよ』
「何だ?」
『オスマン帝国第17代スルタン・ムラト4世』
「というと……」
ムラト4世は17世紀前半のオスマン君主だ。
イスラム原理主義に傾倒していたという説もあるが、酒とかタバコとかコーヒーとか風紀を乱すものが嫌いだったらしい。
特にタバコについては、とことんまで嫌いだった。街の大火の原因がタバコだから嫌いになったという説もあるが、徹底的に処分して喫煙者三万人を処刑したという記録もある。
秘密警察を市内に放つだけでは飽き足らず、自らもお忍びでイスタンブルを歩き回り、喫煙者を探し求めていたという。
君主のお忍びというと、水戸黄門とか北条時頼とか、どちらかというと良い方向性のものが多い。喫煙者を探して殺すのが目的でお忍びをするという君主はかなりアレだ。頭がオカシイ。
もっとも、ムラト4世はただのDQNスルタンではない。
指揮官としては有能だった。東部のイラン方面に出征して、かなりの勝ちを収めている。
長生きすれば、西側にも遠征したかもしれない。
時のヨーロッパは三十年戦争で疲弊しきっている時代、トルコが名将の指揮の下攻めてきたら大変なことになったかもしれない。
しかし、ムラトは長生きできなかった。
この男は、市民には禁酒を強制していたが、自身は無類の酒飲みだった。極上ワインをスルタン専用のものにする法令まで施行している。
結果として、27歳にして肝硬変で世を去ることになった。
しかも、死の間際においてすら、ムラトはDQNぶりを発揮している。
唯一残ったオスマン帝国の直系男子である弟・イブラヒムを殺すように命じているのだ。皇帝の座はクリミア・ハンの王子に渡す心づもりだったらしい。
そのイブラヒムは「狂王」と呼ばれることとなったが、こいつより狂っているとなると、どれだけなんだろうか?
『ムラトがヨーロッパも征服すれば、世界中からタバコがなくなるわよ』
「おぉぉ、それは面白そうだ。禁酒……とまでは行かなくても、酒を控えめにしておけば長生きできるし、かなり歴史を変えられるかもしれないな」
地上からタバコを抹殺する。
崇高なミッションが始まった。
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