第29話 ヴラド・ツェペシュに転生しました・中編
注意:この話には残酷な表現が含まれています。
ということで、舞台は15世紀のルーマニア南部。
俺はヴラド・ツェペシュとして転生した。
とは言っても、ルーマニアにいられる時間はほとんどない。
父のヴラド2世がオスマン・トルコに敗北したので弟のラドゥとともにオスマンの本拠地エディルネに送られることになった。人質ということだ。
ワラキアだけではないが、この時代の東欧南部には二つの選択肢がある。
①オスマンの支配を拒んで、オスマンに攻められる。
おめでとう俺。この当時、世界でもっとも強いオスマンと戦う権利を与えられたぞ。しかも、もう間もなく、オスマン史上でも最強クラスの戦闘能力をもつメフメト2世が即位するぞ。
②オスマンの支配を受ける。
オスマンは俺達のことを信用していないから貢納金が大きい。それを負担しなければならないし、周囲は「あいつイスラムに降ってるよ」と攻撃してくる。これもきつい。
そうこうしているうちに、父のヴラド2世と兄のミルチャが殺害されたという報告が入った。
さしあたり、ワラキアの敵はハンガリーに、トランシルヴァニアに、ワラキアの反抗的な貴族だ。オスマンに敵対するなら、これにオスマンが加わる。
どうやって生き残れっつーんだよ。絶対無理じゃねーか。
トルコのスルタン・ムラト2世は「ワラキア公が殺されたから、息子のおまえが行ってこい」と気楽に送り出そうとする。
いっそ、「無理だ! 中東方面に派遣してくれ!」とでも叫びたいが、さすがにそんなことは許されないだろう。
俺は皇太子のメフメトに会わせてくれと頼んだ。後のメフメト2世だ。
やはり、オスマンと戦いのは分が悪い。基本、服従路線で行くべきだろう。
東欧諸国には「オスマンに従ったら、全員とことんイスラム化させられてしまう」という恐怖がある。だから抵抗する。
だが、メフメトは必ずしもそうではない。コンスタンティノープルを支配した後、メフメトの第一希望はイタリアである。文化度合いが東欧より高いし、昔はローマ帝国だった歴史もある。
「東欧なんて荒っぽいだけで面白くもない。イタリアに行きたいなぁ」
これがメフメトの本音であり、できれば、東欧に兵士をはりつけたくはないはずだ。
作者注:第二部最初のロレンツォ・デ・メディチがオスマンにビビッていましたが、メフメト2世が脅威まき散らした少し後の時代です。
「皇太子、私はオスマンのために頑張りますので、そのうちワラキア公に対する処遇を良くすると約束してもらえないでしょうか?」
分かりやすく言えば、「利率を安くしてくれ、債務を一部免除してくれ」というなものだ。
「うーん、そうしてやってもいいけれど、ワラキアの今後の態度にもよるかな」
予想通りの返答だ。「きちんと返済するなら考えてやるけど、おまえんとこ、返済しないことが多いからなぁ」というようなものだ。
メフメトは更に言う。
「そもそも、そういうのは父に頼んだ方がいいんじゃないか? 余は皇太子でその決定権はないぞ」
「いいえ、いずれ貴方がオスマンを良くすると確信しておりますので」
「……おっ、そうか? おまえ、そう思うか?」
俺の追従に、メフメトはニヤニヤした。
かくして、オスマンの支援でワラキアに戻った。
そこで俺は、見たくないものを見せられることになる。
東欧の風土は日本とは違う。日本だと湿度が高いから放ってやおくと腐敗が進むが、東欧はそこまでは行かない。土葬した場合でも、運が良ければ何年間かほとんど変わらないこともあるらしい。
兄のミルチャは生き埋めにされて殺されたわけなのだが、その保存状態も悪くないわけだ。
だから、正視に耐えない苦悶の表情やら、外に出ようと必死に石や土を搔きむしったボロボロの手なども見えるわけだ。
うぇぇぇ……。
それを見終わった後に、しばらくワラキア、モルダヴィア、トランシルヴァニア、オスマンのゴタゴタが続き、俺は放浪することになる。
三年後、ワラキアに戻った俺は、反発した貴族共に復讐して、全員生き埋めにすることに成功した。
そのうえでオスマンに従う路線を打ち立てると、メフメトから指示が来た。
「おまえは俺を即位前から信じてくれたから、俺もおまえを一回信じてみることにするわ。貢納金は安めでいいぞ」
やったぜ!
と思ったのもつかの間。周りの面々やらワラキアの残った貴族が不穏になった。
「何であいつだけ優遇されるん?」
「俺は知っていたよ。あいつはメフメトに掘られていたんだ。だから贔屓してもらっているんだ」
「バルカンは火薬庫だぜ! 戦争しなくて、何がバルカンだ!」
「そうだ、戦争だ!」
「戦争を! 一心不乱の大戦争を!」
という理由で大規模な「ヴラド追放キャンペーン」が始まった。
これに負けると俺は生き埋めにされかねん。
正念場だ。
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