第26話 燃えよ鎌倉⑥~北条政子に転生しました・後編
富士川の戦いから数年。
頼朝様はこの世の春を謳歌しておりました。
義経が打ち出す策がバシバシ当たり、平家を追い詰めたのみならず朝廷をも追い詰めていくのです。
とはいえ、これは非常に危険なことでもあります。
何せ鎌倉には義経に対抗できる者がおりません。
このままでは後々、大いなる災いとなることは明らかです。
ワタクシはさしあたり、頼朝様に鎌倉から義経を遠ざける策を献策しました。平家を倒すのですから、九州に拠点を移してしまえばどうかと。
しかし、猪口才な義経は別の策を打ってまいりました。
『親愛なる兄上、鎌倉さまへ。
九州に私の本拠地を移転するというご提案、真にありがとうございます。
じっくりと熟慮したのですが、地域を変えていただけないでしょうか。
といいますのも、私は奥州藤原氏に
九州には
NOoooooo!
義経め、北陸に行こうとは!
藤原氏との連携をアピールするということは、裏返せば「粛清する気なら奥州藤原氏と事を起こすもんね♪」という脅迫に他なりません。しかも、北陸は京に近いうえに、延暦寺をはじめとした寺社の荘園も多数ある要地です。
何という、狡猾な男なのでしょう、義経!
「確かに九郎の言う通りだ。九郎に北陸を任せて、西国は蒲殿に任せよう」
九郎に骨抜きにされている頼朝様はあっさりと聞き入れてしまいました!
くぅぅぅ。
悔しいですわ。
このままでは頼朝様が亡くなった後、源氏の主導権は義経に乗っ取られてしまいかねません。頼家は、実朝はどうなってしまうのでしょう。
そんなことはさせません。
必ずや、ワタクシの悪女たる誇りにかけても義経を誅してみせます!
たった今、妙案を思いつきましたわ。クフフフフ。
「なあ、大姫や」
「おや父上(北条時政)、どうかなさいましたか?」
「いや、物凄い悪い顔をしているなと思って。父は不安だよ」
「……お黙りいただけますこと? 北条家が少しでもいい目を見たいとお思いなら、あの
そう言って、ワタクシはうるさく鳴く雉の首を刎ねました。
雉も鳴かずば撃たれまい、ですわ。
九年が経ち、平家は滅亡し、朝廷と奥州藤原氏は屈服いたしました。
そして、頼朝様が亡くなりました。
あぁ、頼朝様、鎌倉幕府はワタクシが支えていきますわ。
そのためにも、義経は排除しなければなりません。
二代将軍は頼家となりましたが、義経は実質副将軍のような立場で君臨しています。14人の合議制においてもトップです。
義経本人には隙がありません。
そういう時の常道手段は、近くにいるアホをターゲットにすることです。
そのアホとは誰か。
「奥州の藤原泰衡は、父秀衡が死んで以降、鎌倉をないがしろにする発言ばかりです!
「アイアイサー!」
ワタクシは弟の義時を通じて藤原泰衡討伐を主張いたしました。
数年前に亡くなった泰衡の父秀衡は老練していたので、鎌倉の支配を受け入れつつも平泉の独自性をキープしておりました。
泰衡はそれができません。独自性を維持しようとして鎌倉に対し反抗的な態度を取っていました。舐めていたと言っていいでしょう。
ワタクシ、この五年は泰衡だけをターゲットとしておりましたから、奴の失態はいくらでも出てきます。
「お待ちください! 泰衡は鎌倉に悪意があるわけではなく、若さゆえの過ちというやつで」
義経が擁護しようとしますが。
「泰衡を擁護しようなど、義経も同罪ですわ! そういえば、あんなこととかこんなこともしておりましたわね!」
「おーっ!」
皆、義経に不満を抱いております。
それが一気に爆発いたしました。
愚かな泰衡は半年余りで討ち取ることができましたが、義経はさすがに名将。簡単には行きません。
とはいえ、奴は越後国府に籠城中。何することもできません。
「義経! さっさと諦めてワタクシに首を差し出しなさい!」
「この悪徳尼め! 何て卑劣な奴なんだ!」
「オーッホッホ! ワタクシのような悪女には心地よい響きですわ!」
「……うん? ワタクシ? 悪女? おい、おまえ、もしかして郁子か?」
「むっ?」
まさかの実名呼び?
ワタクシのことを知っているとなると。
「もしかして、天成兄ちゃん?」
「やはり郁子か! 道理で非道だと思った!」
何たることでしょう!
義経の正体が従兄の天成だったとは!
神共め、同士討ちをけしかけるとはとんでもない連中です!
「おい、郁子。まさか義経を倒せとか言われたわけではないだろう?」
「もちろん、そうですけど……」
「ここは共闘路線で行くべきだと思わないか?」
「むむむ……」
確かに、ワタクシの支配は完璧なようにも見えますが、穴がないとも限りません。泰衡から義経破滅ルートを作れたように、何らかの理由で政子破滅ルートが開く可能性もあるのです。
長い繁栄を考えれば、天成の力も借りた方が良いのでしょう。
「了解。だけど、北条氏の執権はキープするわよ」
「分かった」
かくして、安徳天皇に圧力をかけて、「義経は主上を救った忠臣である。それが討滅されるのは忍びない」という勅書を出させました。
「仕方ありませんわね」
鎌倉もそれを受け入れて、義経は副将軍から評定衆への降格ということで解決しました。八百長解決というやつです。
かくして、御家人モグラ叩きは新しいフェーズに移りました。
一人プレーではなく、二人プレーで邪魔な御家人を一人残らず叩き潰すのです!
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