第25話 燃えよ鎌倉⑤~源義経に転生しました・後編

 頼朝からの返事を見て、俺は満足した。


 頼朝の構想というのは、源氏が平家を倒すにあたって朝廷の力を一切借りないというものだ。

 そうすればどうなるか。

 世間は「あれ、朝廷は何もしていないのに頼朝が平家を倒しちゃったよ? 朝廷ってたいしたことないなぁ」と思うはずだ。

 そのうえで朝廷の有する地方管理権を取り上げる。

 武家が実を取り、公家は名だけの存在となる。

 京都と鎌倉のバランスが大きく鎌倉寄りになる。

 めでたし、めでたしというわけだ。


 だから、俺が判官になったらいけないし、他もそうだ。


 俺が任官を断り、「勝手に任官した奴は、俺が斬るぞ!」と脅しをかけたので周りもみんな従った。何人かは不満めいた手紙を頼朝に送ったようだが、逆に頼朝に叱責されたらしい。いい気味だ。

 史実では俺が真っ先に検非違使についたから、みんなも続けて官職をもらって収拾がつかなくなったが、今回は完璧だ。


 朝廷は困って、俺達にあれこれ便宜を図ろうとするが、俺は全部無視した。

 もちろん、向こうから頼まれたことはやってやる。

 朝廷が困って武士に助けを求めたら武士は助ける。

 でも、武士は朝廷に助けを求めないし、影響力その他を一切受け取らない。

 情けは人のためならず、ということだ。ちょっと違うか。


 ここまで来たら、壇ノ浦の収め方も重要になりそうだ。

 俺は頼朝の意向を確認する。「ここまで来たら、相手の音をあげさせて、主上(安徳天皇)やらその他(三種の神器とか)を確実に収めた方がいいかと思います」と。

 返事が来た。「九郎は本当に私の考えを理解しようと努めてくれてとても嬉しいよ。私も九郎の言う通りだと思う。戦場には色々困難があると思うが、うまく収めてほしい」

 更に奥書があった。「期限は考えなくてもいいよ。時間をかければかけるほど鎌倉ができることは増える。遅れているとか頼朝が怒るかもしれないなどと焦る必要はない、二、三年かけてくれても構わない」


 エグい。

 甲斐源氏も屈服させたし、鎌倉の威光はじわじわと西に浸食している。

 その西はというと、平家が残っている限りは安定しない。朝廷の荘園もあり、寺社の荘園もあり、平家の荘園もある。

 それぞれが相争ったり、機能不全を起こしてボロボロになったところで、鎌倉が「鎌倉に任せれば平穏無事に解決! いただきまーす」と全部平らげてしまおうというわけか。


 これならうまくいきそうだな。


 そう安心していたら、二か月後、頼朝からまた手紙が届いた。


『九郎、時間がかかるようなら、九州に拠点を構えても構わないよ』


 むむっ。

 これはどう評価すべきか。

 九州に居を構えてやりやすいようにしてくれと措置してくれたようにも受け取れるが、鎌倉から九州に移ってくれということは左遷とも受け取れる。

平三へいざはいるか?」

 俺は梶原景時かじはら かげときを呼んだ。

 史実では対立してしまった景時だが、当然、俺はこいつと敵対するようなことはしていない。ま、親友と言えるような間柄ではないが。

 脳筋万歳の鎌倉武士の中で、策略などが出来るのはこいつくらいである。

「鎌倉の様子がどうなっているか、調べてきてくれないか?」

「……俺にそれを頼むということは、九郎殿から見て面白くない動きがあるわけですな?」

「鎌倉殿は俺達に九州に居を構えても構わないと言ってきている。好意なのかもしれないが、鎌倉から自分達を追い払おうという動きがあるのかもしれない、とも受け取れるんだよな」

「なるほど、それはまずいですな。それでは調べに行きます」

「頼んだ」


 いくら何でも、この状況で頼朝が俺を遠ざけることはないはずだと思いたい。


 しかし、鎌倉はそれぞれの武士の都合で成り立っている。

 俺は関東に地盤がない。「義経に関東でデカイ顔をされたくない。西国から帰ってこないでくれ」と、多くの者が思っていても不思議はない。


 また二か月が経った。景時からの情報が戻ってきた。

『御台所殿が鎌倉殿に、「九郎殿に西国を任せてはどうだ」としきりに主張しているようで、鎌倉殿も悪くない考えだと思っているようです』


 むむぅ、北条政子か。

 活躍するのは義経の死後だからノーマークだったが、確かにあの女は色々とおかしいくらい有能だ。俺を厄介視しても不思議はない。


 そうだ。

 頼朝との信頼関係に満足しそうになっていたが、問題は頼朝がいずれ死ぬということだ。

 その後は北条やら三浦やら、和田やら比企やら、数多の家を巻き込んだバトルロイヤルだ。

 もはや平家を相手にしていても仕方がない。

 鎌倉の戦いは違うフェーズへと移りつつある。

 そこに向けての備えもしなければならない。


 そのためには、いっそ西国を俺の地盤にしてしまうというのも一つ、手ではあるが、問題は西国が疲弊しきっているところだ。

 立て直している間に、実権を失ってしまう可能性がある。

 

 よし。

 俺は景時の息子、景季を呼び出して、父親に伝えてもらいたいことを伝言した。

 こういう時、半端な使者には任せられない。強い奴を使わないとな。

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