第23話 燃えよ鎌倉③~源義経に転生しました・中編

※今回は二人の前・中・後に最終編の7話仕立ての予定です。



 俺、源義経は現在、平泉から鎌倉に向かっている。


 時は治承四年(1180年)

 間もなく以仁王もちひとおう源頼政みなもとのよりまさが反平家の兵士を挙げる。

 これは失敗するが、以仁王の宣旨を受けた兄・頼朝が伊豆で挙兵する。


 俺の第一目標は、「頼朝の旗上げに参加する」ということだ。

 史実の義経は、富士川の戦いの後、頼朝の下に入ったとある。

 つまり、「頼朝が成功したぞ」というタイミングで行ったわけだ。


 迎える側としてみると、「こいつ、成功したから俺のところに来たんだな」と軽く見られかねない。

 そして、源頼朝という男は、そういうことを忘れないタイプだ。悪いことに関しては根に持っていると言ってもいいだろう。

 これは裏返すと、早めに合流すれば「義経は旗揚げ時から来てくれた。彼は弟の中でも特別な存在だ」となる。

 だから、まだ何も起きていないが、「これから何か起こるかもしれないので、頼朝のところに行きます」と藤原秀衡ふじわらのひでひらに行って、出てきたわけだ。

 当然、何も起きていないから護衛はほとんどいない。武蔵坊弁慶むさしぼうべんけい常陸坊海尊ひたちぼうかいそん金売吉次かねうりきつじの四人だ。


 人数は問題ではない。1万人のところに500人連れて加わるより、13人のところに1人だけで参加した方が感謝される。

 問題は、どうやって中に入り込むか、だ。

 謀議中のところにいきなり「弟です」とか言って入っても信用されるはずがない。


 これは頼朝の挙兵を見計らい、途中で頼朝方に参加した方がいいだろう。

 ということで日を待つ。

 幸い、弁慶と海尊と吉次がいるので山伏と商人の一行だ。

 滞在していても不審がられない。


 そして、時が来た。

 頼朝の一行が、伊豆の代官山木兼隆を襲撃し、戦死させたのである。

 そのまま石橋山方面に転戦しようというところで、俺達ははせ参じる。

「兄上!」

「……お主は?」

頭殿とうでん源義朝みなもとのよしともが九子・義経! かつての牛若でございます。一月前、夢枕に頭殿が立ち、兄を助けよと言われたので、ここまではせ参じました!」

「……そ、そうなのか?」

 明らかに怪しんでいる。

 ま、俺が頼朝でも、こんなことを言われたら「絶対怪しい」と思うだろうから、文句は言わないが。


 何人かとヒソヒソ相談をした結果、「嬉しいぞ義経。おまえには左の端の方に行ってもらいたい。敵はそこから来るはずだから」と棒読みで言ってきた。

 多分、戦場で一番関係の無いところか裏切っても構わないところに置くつもりなのだろう。わざわざ理由を言うあたりも後ろめたいことが分かっているから、だ。

「分かりました!」

 ただ、俺のここでの目的は戦果ではない。「頼朝と一緒に最初から戦っていた」という事実が必要なのである。

 石橋山に付き従った神セブンならぬ神スリー・ハンドレッドになるのだ。


 そのまま数日、俺達は石橋山で平家軍と戦うことになった。

 期待していた三浦の援軍は、川の増水に阻まれて来ない。

 勝ち目はなくなった。負けだ。


 だが、ここからが勝負だ。

「俺は、頭殿の九子九郎義経! 頼朝を討ち取りたくば、俺を殺してから行け!」

「源義朝様が九郎が配下の武蔵坊弁慶! 命が惜しくなければかかってこい!」

 と戦場をかけめぐって、俺の名前をアピールする。

 もちろん、戦いそのものも頑張ってはいる。

 ただ、俺は基本的に幅跳びしまくって、戦場を往来してアピールするのが役目。

 戦うのは弁慶と海尊だ。


 戦いは一日で終わり、頼朝軍は大敗。

 俺達は安房へ落ち延びることとなった。


 繰り返しになるが、この負けも関係ない。

 頼朝と共に負けたという既成事実を作ることが大切なのだ。


 俺の目論見は当たった。


「九郎よ」

 船上で頼朝から声をかけられた。

「九郎よ、兄を許してくれ。私はおまえが突然現れたので信用していなかった。だから、一番無関係と思ったところにおまえを置いた。しかし、どうだろう。おまえと従者の戦いはものすごいものだった。私がおまえを信用していれば、この戦いも変わったかもしれない。己の了見の狭さに泣きたくなる思いだ」

 戦いに負けた悔し涙もあるのだろうが、頼朝は本当に涙している。

 いや、まあ、仕方ないよ。誰だって信用しないよ。

 実際の歴史ではいなかった存在なわけだし。

「おまえが弟の中でただ一人かけつけてくれたことを私は生涯忘れないだろう。実を言うと、私は元服直後、何も勉強しないまま流刑になった。流刑先の平家のものが敵の私に軍のことを教えるはずがないから、軍事知識は何もないのだ。全くの戦音痴と言ってもいい。だから今後、戦場には立つが軍事的なことは九郎に全て任せたい」


 キター(・∀・)ー!

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