第22話 燃えよ鎌倉②~北条政子に転生しました・前編
ワタクシの名前は奥洲郁子!
前回、ノルウェーに行こうとしたところ、そのまま海流に乗って北極海まで行ってしまい、極寒の中で凍死するという経験をいたしました。
あんな思いはこりごりですわ。次は暖かいところに行きたいものです。
『そんなおまえに朗報だ』
「おや、眼鏡をかけた神様。久しぶりの登場ですわね」
『女神は天成の方に行っているからな。天界も忙しいのだ。さて、今回の転生先は日本だ』
「日本!? しかし、蝦夷とか津軽は嫌ですことよ」
『安心しろ。関東だ。おまえには北条政子に転生してもらう』
北条政子?
というと、浮気されて浮気女の家をぶち壊した人ですわね。
『そっちかい』
「どうにもブレている女という印象ですわ」
当時……というか、明治に至るまで女は実家を優先するのが当然でした。
有名なところでは浅井長政に嫁いだ織田信長の妹・市があげられますわね。夫が織田家ではなく朝倉家につこうとした際、迷うことなく信長にそのことを報告しています。フィクションでは悩んだように書かれていることも多いですが、多分当然のこととして報告していたのではないかと思います。
ところが、北条政子は北条家よりも頼朝との関係を重視していたきらいがあります。北条家と源氏を比べれば家格が圧倒的に違うので飲み込まれたか、あるいは頼朝のことが好きすぎたのか。
もっとも、北条政子が他の女のように北条家のためだけに頑張っていたら、北条家自体が抜きんでてしまって早い段階で消えていた可能性もあるわけでして、彼女が曖昧な立ち位置を貫いたことが結果として北条家には良かったのかもしれませんが。
『嫌なら北欧のヴァイキングにでも転生するか?』
「北極海は嫌ですわー! しかし、北条政子に転生して何をすればいいんですの?」
正直、個人としては大成功した類ではないでしょうか。
尼将軍なうえに従二位の位まで貰っているのです。鎌倉からも京からも一目置かれておりました。地方有力者の部下の娘というスタートを考えれば破格です。
日本史上、最強の成り上がりと言ってもいいのではないでしょうか。
あれ以上の成功など望めそうにありません。
『だが、より良いものを目指すルートは残っているぞ。おまえも微かに疑念を抱いたかもしれないが、北条政子は実家より婚家を選んだと思しきところがある。その点では彼女の人生は満足のいくものとは言えまい……』
「それはまあ……」
夫にも、子供達全員にも先立たれ、残ったのは自分の栄誉のみでした。
これが幸せでない、と言えばそうなのかもしれません。
『頼朝の残そうとした鎌倉幕府を残すという大業が残されている』
「むむむ、それは確かに凄そうではありますが、悪女の仕事ではありませんことよ」
『ならば、悪女としても羽ばたくがいい。貴様ならできるだろう』
「……!」
『おまえが完璧な悪女となれば、源氏の支配がなされることだろう。完璧な悪女となって、地獄のような鎌倉を手玉に取ってみせよ!』
「おぉぉ、燃えてきましたわ! やりますわ! 地獄を支配する悪女となってみせますわよ!」
『その調子だ! 行ってこい!』
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