第19話 モンケ・ハーンに転生しました・後編

 カラコルムを出発して4年が経過した。


 俺とバトゥ、スブタイにグユクの四人は、パリの街だったものの上を歩いていた。

 おっと、俺達が破壊したわけではないぞ。

 この時代のパリは、まだまだ発展途上の微妙な街だ。ちょっと一押ししたら地上から消え去ってしまっただけだ。


 俺達は歴史通り(多少時間は早いが)にポーランドで東欧軍を撃破し、その後、ハンガリーまで占領した。

 その後、神聖ローマ帝国フリードリヒ2世がシチリアに引っ込んだので、ドイツもありがたくいただいた。

 その足でフランス軍もあっさりと撃破した。

 向かうところ敵なしとはまさにこのことだ。


 俺達モンゴルは生活共同体が軍隊みたいなものだ。

 他の連中は違う。軍を編成して、コストをかけなければいけない。

 コストをかけるからには、どこかで戦闘をしたいという意欲が先立つし、時間がかかりすぎると兵站の限界を超える。

 ま、途中の街で略奪するという手もあるわけだが、それにも限界がある。相手は平常心でいられないうえに、機動力はこちらが上。落ち着いて戦っていれば、相手が勝手に自滅するというわけだ。


 あと、俺達は変な倫理を持たないから勝つために必要なことをする。

 仮に「そんなのは横綱のやることではない」と言われても、かちあげだって変化だって、思い切り後ろからの立会だってやる。

 勝てばいいのだ。

 モンゴルしか勝たんのだ(横綱休場時は除く)。


「しかし、ここから先には中々進めんぞ」

 スブタイの爺さんが言う。

 確かに、フランスまで攻め込むと南はアルプス、南西はピレネー、北西にはドーバー海峡がある。機動力が活かせない。

 コンスタンティノープルも置いてきているから、ビザンツが東欧にちょっかいを出してくる恐れもある。


 まあ、そこは慌てなくてもいいだろう。

 モンゴルの強みの一つに、さしたる既得権益がないということもあげられる。

 良くも悪くも草原の民なので、占領地に自前のルールを強行に押し付けることはない。まあ、田圃を撤去して牧場にしようぜと言ったなんてことはあるけどな。

 キリストだろうと、イスラムだろうと、儒教だろうと、来る者拒まずの精神で受け入れる。

 支配地域の確保さえしっかりしておけば、スペインからもイタリアからも流れてくる者がいるだろう。そいつらをしっかりキープしておけばいいだけの話だ。


 ただ、対イスラムではバグダードは占領しておいた方がいいかもしれないな。

 カリフを捕まえたとなれば、スペインのイスラム勢力は恐れおののくはずだ。


「俺は一回モンゴルに帰る。バトゥと爺さんはヨーロッパをしっかり押さえておいてくれ」

「俺は?」

 一人だけ残されたグユクが、当然のように尋ねてくる。


 こいつの扱いは難しい。

 史実では敵対して暗殺してしまっているからな。

 ただ、その不仲はヨーロッパ遠征で功を争ったことに端を発する。今回、俺は皇太子として指揮しているので、グユクも特に何も言わない。

 完全に信用するのは危険だが、ひとまずロシアあたりを任せておくか。


 カラコルムに戻る前に、俺はフレグを呼び出した。

「おまえはアリクブカとともにイスラムを支配しろ。おまえが占領した地域が、すなわちおまえ達の支配する場所だ」

 こんなことを言われて燃えない奴はいないだろうと思ったが、アリクブカは情けないことに「父母の故地であるモンゴルにいたい」と言い出した。

 俺はアリクブカをビンタした。

「馬鹿者! 無限に広がる世界を我が黄金の一族が支配するのだ! 既に我々が長年住みついているモンゴルに残りたい? 貴様は石ころだったのか? 石ころは黄金の一族にはいらぬ。父母も石ころのような子は捨てたいと思っているだろう!」

 ここまで言ったら、アリクブカもやらざるをえない。「やめてよね、本気になったら、兄貴が俺に勝てるわけないだろ」と完全に自分の世界に入って出撃していった。


 俺は念のため、モンゴル平原で麻薬が植えられていないか調査を命じた。


 時は1240年になろうと言う頃。

 モンゴルは世界を掴もうとしていた。


 あ、ちなみに親父はもう、死んでいる(事後報告)。

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