第18話 モンケ・ハーンに転生しました・中編
かくして、俺は13世紀のモンゴルへと転生した。
俺はモンゴル相撲を取り、馬に乗り、祖父チンギスが奪った財宝を見て過ごしていた。
「すごいですねぇ。財宝」
「うむ、これはイスラム世界から奪ってきたものだ。世界は広い。南の中国にも財宝が一杯あるが、西のイスラム世界にも財宝が一杯ある」
モンゴルが騎馬民族の中で一際強くなった原因の一つに、西のイスラムと接点をもったことがあげられている。それまでの騎馬民族は南の中国のことしか知らず、中国の財宝が世界の全てと思い込んでいたが、俺達はそうではない。
「中国はすごいが、イスラムもすごい。まあ、全部俺達のものだけど」
というメンタリティだ。
チンギス存命時は、まだ子供なので大したことはできない。
そうこうしているうちにオゴデイが二代目ハーンとなった。
ここからが本番だ。まずはオゴデイの死ぬタイミングを計らなければならない。
史実なら俺達が西ヨーロッパに行く以前に死んでしまう。
死因ははっきりしている。酒の飲み過ぎだ。
名臣耶律楚材が諫めても聞かなかったというから、俺が禁酒を勧めても無意味だろう。
諫めて聞かないのなら、逆路線で行こう。
俺はインドから大量の闇酒を仕入れてオゴデイに献上した。
「伯父さん、これはインドでバクダンと呼ばれているものすごい酒らしくて、100人飲んだら55人は死ぬらしいです。生き残っても半分くらいは失明するのだとか」
「何と!? そんなものすごい酒があるのか?」
「世界皇帝たる伯父さんの下には全ての酒があるべきと思ったので献上しますが、これは飲んだらダメですよ、絶対に。群臣の皆も飲ませたりしないように。飲もうと提案した者は厳刑に処すべきです」
俺はそう言って置いていった。
一か月後、オゴデイは急死してしまった。
げに酒好きというものは強い酒を飲みたくなるものらしい。
「おーん! 伯父さん、あれほど飲むなと言ったのに……」
俺は葬儀で男泣きに泣いた。
隣でクビライとフレグ、アリクブカが白けた顔をしている。
「飲むななんて言ったら、絶対に飲みますよ。何でもっていったんですか?」
「伯父さんは世界皇帝だ。全ての酒を管理しておくべきだと思ったんだ。おーん!」
オゴデイが一年も経たないうちに死んだ。次の皇帝を選ぶことになるが、当然最有力候補は父トゥルイで、実際そのように運んだ。
ただ、父は病弱なので保険を打った。
「多分、私はそう長くはないだろう。次をモンケとすることを承認するのなら、皇帝位を継ごう」
キター!
史実より20年くらい早く、モンゴルナンバーツーだ!
しかも、次のナンバーワンの言質付きだ!
もっとも、言質なんてものはアテにはできない。
周囲に「次はやはりモンケだ」と思わせなければならない。結局は実力と実績がものを言うのだ。
そういう点でもぬかりはない。
南に進軍して、まずは中国北部にある金朝を撃破した。
ただ、とりあえずはここまでだ。
中国南部の南宋については川ばっかりなので攻め込むのが大変だから準備に時間がかかるからな。
ということで、進路を変えてヨーロッパ遠征だ。
俺はグユクとバトゥを連れていくことにした。
チンギス・ハーンの息子のうち、正妻ボルテの子はジョチ、チャガタイ、オゴデイ、トゥルイだ(49話参照)。
ジョチ家のバトゥを連れていき、オゴデイ家のグユクを連れていくことで、仮に中国に残る父に何かがあっても、大きな反乱は起きないだろう。
「まさかの時には中国はおまえに任せるぞ。クビライよ。俺が全部認めるから好きなように中国を差配するがいい」
モンケの失敗の一つは、モンゴル至上主義なところがあったことだ。
それ自体は悪くないのだが、弟クビライが「中国の方が良くない?」と思った時に、「あいつは中国に毒されている」とハブろうとしてしまった。
この無駄な対立で自分が南宋攻撃の指揮をとらなければならなくなって、結果病死してしまった。
弟とはいえ、潜在的なライバルではある。
だが、考えが違うからという理由で対立しているのはもったいない。
なるべくクビライに中国を支配してもらいたい。
「そんなぁ。せいぜい二年程度でしょ。何かあってもそのままにして待っていますよ」
クビライは俺が深刻な顔をしているのを見て、苦笑いを浮かべていた。
二年程度の遠征と考えているようだが、俺は五年は帰らないつもりでいる。
最終目的地はジブラルタル。
ポーランドも、ドイツ騎士団も、神聖ローマ帝国も、フランスも、アンダルシアのイスラム王国も、全部ぶっ潰す。
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