第16話 メアリー・スチュアートに転生しました・後編
ハァ、ハァ。
ワタクシはどうにかエディンバラへと逃走いたしました。
エリザベス、おそろしい子!
ワタクシ、危うく、異なる世界を垣間見るところでしたわ。
『どうせなら、行きつくところまで行ったら良かったんじゃないの?』
うるさいですわ、駄女神のくせに。
まだ再婚していない、ジェームズもいない段階で、エリザベスに捕まったら完全負けゲーが確定してしまいます。
あぁ、しかし、何という舌捌きだったのでしょう。
人間の舌があれだけ鋭く、素早く動くなど、ワタクシ知りませんでしたわ。
あぁ、あの動きが夢にも出て来て、夜も眠れません。
ワタクシ、思いのたけを芸術という形で顕しました。
かくして、西ヨーロッパの都市で、ワタクシの絵と書籍が発売されました。
「いらっしゃ~い、いかがですかぁ? 『ブラッディ・メアリー×バージンクィーン・エリザベス』発売中ですよぉ」
それから三か月が経ちました。
ワタクシの絵と書籍が好調ということで国庫に臨時収入があり、ホクホクとしていたのですが。
「た、大変です! 国内で反乱が!」
スコットランド中の貴族が反乱を起こしたという報告に、ワタクシは度肝を抜かれました。
「一体、何でこんなに早く反乱を起こすのです?」
「そりゃあ、おまえ、英国女王を本気にさせてしまったからねぇ」
ダーリン卿が言いました。夫のくせに、ものすごく他人事です。
エリザベスが本気になった?
確かにエリザベスならできるでしょう。彼女は性癖も変態ですが、能力も変態的です。政治も軍事もこの時代では桁外れに優れています。
ワタクシに不満をもつスコットランド貴族を煽り立てることなど、彼女には余裕に違いありません。
しかし、何故、そんなことに?
『一体どの口がそんなことを言うのかしら……?』
ダーリン卿は全く役に立ちません。
よくよく考えればこいつ、ワタクシに暗殺される男です。つまりワタクシより明らかに役立たずなのです。
あぁ、こんな男と結婚したのは失敗でしたわ。あの時はエリザベスが恐ろしすぎてとにかくジェームズだけ早く産まないとと思って歴史通りに動いたのですが、もっと慎重に相手を選ぶべきでした。
反乱は収まりません。
アッと言う間にワタクシは逃げなければならなくなりました。
ロンドンに逃げると大変なので、何とかフランスに亡命を図りますことよ。
フランスからスペインに行くのです。いくらエリザベスが変態でも、フェリペ2世に引き渡しを要求することはできませんわ。
「ああっ! あの船は!」
しかし、エリザベスは一枚上手でした。
海峡のあたりをエリザベスの命令を受けたホーキンスの早い船が走り回っています。
スコットランドのチンタラした船ではすぐに追いつかれることは必至です。
しかし、史実では海峡を警戒するなんて一文字も見なかったのに、何故?
『そりゃあワンパターンCPUじゃないんだし、相手が別の動きしたらそれに対応するでしょ。どうすんの? もう降伏して、身も心も委ねちゃったらいいんじゃない?』
嫌ですわー!
こうなったら、ノルウェー方面に逃げてそこから陸路伝いでフランスまで逃げてやりますわ!
ワタクシはどこまでも逃げおおせてやりますことよ!
”女神の総括”
『……で、結局、船が遭難して北極まで行ってしまって全員凍死してしまったわね』
「寒かったですわ……、ひもじかったですわ」
『だからロンドンに行けば良かったのに。というか、あんな阿保な本出さなければよかったのに』
「あのままロンドンに行くのは、ワタクシのプライドが許しませんでしたことよ。そして、あの舌捌きはワタクシのインスピレーションを刺激してなりませんでしたわ。あれを表現しないのは人類に対する罪だと思ったのです」
『……さいですか。でも、虜囚を拒んで行方不明になったことで、スコットランドでは急に人気上昇したみたいね』
「そうですの?」
『スコットランドが危機になった時、メアリー女王が帰ってきて助けてくれる、って伝説になったわ。悲劇的なうえに、行方不明で死体が発見されなかったということで、アーサー王みたいな感じになっちゃったのね』
「人気になるなら、生きている時に助けてほしかったですわ」
『知らんがな』
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