第15話 メアリー・スチュアートに転生しました・中編
ペロペロペロ。
ワタクシ、奥洲郁子はメアリー・スチュアートに転生いたしました。
とりあえず、成人するまでは特にやることもありません。ですので、靴を舐めるスキルを上げることに専念いたしますわ。
『医学を勉強して、夫のフランソワを助けたらいいじゃない……』
何か空から変な声が聞こえたような気がしましたが、この時代の医学はワタクシの時代のものとはかけ離れております。フランソワを助ける術はありませんわ。
本来なら、フランスとスコットランドが婚姻関係を結んだということは、イングランドを挟撃できる体勢になったことを意味します。
しかし、イングランドの女王はあのエリザベスです。姉のメアリーにロンドン塔に押し込められたところから復活し、圧倒的不利なスペインに勝利するなど不屈の魂をもつ処女王です。
勝てるはずがありませんわ。
史実のメアリーは、エリザベスのことを「庶子」などとののしっていたそうですが、ワタクシはエリザベスに逆らうつもりはありません。どの道、ワタクシの息子のジェームスが次のイングランド王になるのです。処女のエリザベスには子供を残す術はありません。
何もワタクシが喧嘩をする必要はありません。人生を全うするのですわ。
ということで、ワタクシは義父のアンリが何を言おうと(エリザベスを庶子としてメアリーがイングランド王と主張していた)、スコットランド貴族が何を言おうと気にしませんわ。
大体、歳も向こうが9つ上なのです。
長幼の順には従うべきですし、黙っていれば向こうが先に死ぬはずですわ。
フランソワは予定通り16歳で病死しました。
フランスには興味はありません。早くスコットランドに帰ってダーンリー卿と再婚することにいたしましょう。
と、その途中でイングランド側からロンドンに立ち寄ってくれと誘われました。
一体、何でしょう?
正直ビビッていますが、ワタクシはエリザベスに敵対するようなことは何もしておりません。
ここは素直にロンドンに赴くことといたしましょう。
ワタクシの予想通り、エリザベスは友好的でした。
「スコットランド女王は、もっと私のイングランド王位に野心をもっているものと思っていました」
とにこやかに話しかけてきます。
「とんでもございません。イングランド女王のすばらしさはワタクシも聞いております。どうして敵対することなどいたしましょうか? これがワタクシの気持ちと覚悟でございますわ」
ワタクシは一つの靴を用意しますと、長年磨き上げたスキルで、あっという間に綺麗にしました。
正直、周りは引いてしまったようですが、敵意がないことを示すにこれほどの行為はないでしょう。
「……なるほど」
エリザベスはワタクシの靴を眺めて頷くと、自らも汚れた靴を取り出しました。
その次の瞬間、恐ろしいことが起きました。
「……何ですって!?」
ワタクシは悲鳴をあげてしまいました。
何ということでしょう、エリザベスは神業とも言うべき速さで汚れた靴をピカピカに舐め上げてしまいました。
「……スコットランド女王メアリー。私はね、地獄を見てきたの。姉にロンドン塔に閉じ込められ、いつ処刑されても不思議ではなかったわ」
処女王の視線が怪しく輝きます。
「姉への服従を示すために、私は靴だけではなくあらゆるものを舐めたわ。それでようやく姉の信任を獲得することができたのよ。貴女はどこまで地獄を見たのかしら?」
エリザベスは蛇のようにねめつけるような視線を向けてきました。
ワタクシの背筋が凍ります。
どうやらエリザベスはワタクシより一枚上手だったようです。
ワタクシは靴しか舐めておりません。
しかし、エリザベスは姉の処刑をかいくぐるために、靴だけでなくピーやらピーといったところまで舐め尽くしてきたようです。
貴様とは年季が違う。
彼女の目からそんな思いが伝わってきます。
「貴女は私の舌に火をつけたのよ、スコットランド女王メアリー。この火照りを、どう鎮めてくれるのかしら?」
「ひ、ひぃぃぃ」
この作品始まって以来最高にサイコでやばいセリフをエリザベスは口にしました。
"女神の一言"
ポカーン。
エリザベスは女王になる前、異母姉のメアリーに対する反乱容疑をかけられたことがあり、ロンドン塔に幽閉され、何かあれば死刑となる状況で一年ほどを過ごしたことがありました。
姉に対する服従を示すために何でもやったという点に関しては、まあ、嘘ではないかもしれません……
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