第12話 明智光秀に転生しました・後編

 1556年、長良川。


 転生したばかりの俺の目の前で、斎藤軍が大崩れをしていた。そこに猛攻をかけるのも……斎藤軍だ。

 そう、ここでは今、斎藤道三と斎藤義龍という親子による戦いが展開されていたのである。


 戦国敗戦ではおなじみ、矢を受けてヨロヨロと走ってくる兵士が俺の部隊に入ってきた。

「お味方は総崩れ! お屋形様も討死にでございます!」

「むぅぅ……やはりダメだったか」

 父は悔しそうに戦場を眺めていた。

「仕方ない。我々は落ち延びよう」

「十兵衛、おまえもついてこい」

「ははっ」

 かくして、俺は父・光秀に従って一族郎党とともに美濃を去った。


 ……あれ?

 何かおかしくないか?

 俺が十兵衛と呼ばれて、父が光秀ってどういうことだよ?

「十兵衛、どうした? 何をしておる?」

「あ、いえ、敵が追ってこないか確認をしただけです」

「敵はお屋形様に殺到しておるだろう。早いうちに逃げるが吉だ」

「そうですね」

「案ずるな。わしは医学にも通じておる。浪人をしても食うには困らぬわ」

「ははっ」

「そのうち連歌ともどもお主に教えてやろう。だがな、わしの知る学問は古いものだ。おまえは新しいものを取り入れよ。種子島などがいいだろう」

「分かりました。精進いたします」


 かくして、俺は父とともに越前へと流れ着いた。

 越前で、父は医者として活躍し、その裏で俺は火縄銃の使い方を徹底的に研究した。一日三百発というわけではないが、数年間みっちり特訓した。

 やがて俺の鉄砲の腕は朝倉家からも評価されるようになった。

「天晴じゃ。金子きんすを取らせてやろう。ほほほ」

 朝倉義景からまあまあの評価と当座の金をもらった。

「末永く朝倉家に仕えるがよいぞ」

「ははーっ」

 うん?

 何だか良く分からないうちに朝倉家の陪臣にされそうな気配だ。

 ちょっと色々分からんことが多すぎる。一体どういうことなんだ?


 うやむやのうちに数年が経過した。

 いつの間にか越前に、足利義昭が来ていた。兄の前将軍・義輝が暗殺されてしまい、自分が仇を討ちたいけど頼れる相手がいないから、越前まで来たというわけだ。

 うーん、朝倉義景はダメじゃないかな。

 彼は個人としてダメというわけではないが、朝倉家の勢力を伸ばし過ぎると色々問題が起こると考えているようだ。

「十兵衛、おまえはどうすべきだと考えている?」

 父に聞かれた。

「尾張の織田信長は、美濃も確保して日の出の勢いです。義昭様を助けるとすれば織田家しかありますまい」

「そうか。ならば十兵衛、義昭様を連れていけ」

「そうしたいですが、義景様にも色々目をかけていただいていますしねぇ」

「それは気にするな。わしが義景様のところに行って、隠居を宣言してくる。義景様が目をかけたのは、このわしだ。おまえは関係ない。おまえは明智光秀として信長と会ってこい」


 ……何だって?

 これって斎藤道三パターン?

 えっ、つまり、光秀は途中まで親父で、織田家に仕えてから俺がなるってことなの? 親子二代でやったって扱い?

 というか、俺、信長よりも若いじゃん。


 ま、まあ、確かに光秀の前半生は全く分からんし、信長のところで頭角を現すまでに色々ありすぎる。

 北条早雲のような実は名家ならともかく、明智はそうじゃないみたいだし、斎藤道三と同じく二代で来ましたというのもあるのかもしれないなぁ。


 67歳とか70歳とかかなりの年長説があるのは、父親のことを指していた扱いにするということか。


 ともあれ、俺は信長の下に入った。

「おぉ、おみゃーは若くて使えそうだぎゃー。わしの手下は年上ばかりだでうるさいんだわ、おみゃーのことは期待しとるで」


 ということで、織田家譜代かつ年長代表が柴田勝家。

 織田家外様かつ若手代表が明智光秀という構図で、織田家は躍進していくことになった。

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