第11話 明智光秀に転生しました・中編

作者注:今回は四話構成になりました。


 明智光秀に転生するからには、改めてどんな人物かをチェックする必要がある。


 まず光秀は、前半生がはっきりしていない。

 美濃・斎藤氏の被官ではなかったかと言われていて、その後朝倉氏に仕えて足利義昭にも仕えたという。このあたりの経緯があるので「本能寺の変の背後には足利義昭がいる」とも言われているな。


 とはいえ、はっきりしない。

 はっきりした形で出てくるのは織田信長の下に仕えてからだ。

 年齢すら分からないところを見ると、農民出身の秀吉よりも謎な存在だ。


 光秀の能力要素を見てみよう。

 こいつは細川藤孝と連歌を交わしたというから、まず相当な歌人だ。教養的な要素は高いし、医師の生業をしていた時期もあるのではないかとも言われている。

 それでいて鉄砲が伝わってくると、これにも習熟したらしい。当時屈指の技術者だったという話もある。

 総合的な能力の高さは、愛用のM16(光秀16。光秀には1516年出生説もある)を携えている某暗殺者とも被る。


「……用件を聞こう」

「光秀、お主は将軍である余を、安全な場所に連れていくのじゃ」

「……俺は火縄銃狙撃の専門家で、護衛はしない。他を当たってくれ」

「ま、待ってくれ。では、この将軍・足利義昭が織田信長の庇護を受けるまで、余を狙う奴を狙撃してくれ」

「……分かった。やってみよう」


 ひょっとすると、こんな奴だったのかもしれない。


 本能寺の変は陰謀説が多くあるが、光秀がこういう気質なら「分かった。やってみよう」とか言って本当にやったのかもしれない。


 ま、さすがにこれはジョークだが。


 国民的暗殺者と比較されるくらいの能力のありそうな奴だ。

 ただものではない。


 ……何で信長を裏切ったんだろうな。


 伝えられるところによると、二年くらい前には「私は信長様に見出されてこれだけ多くの国を与えられた。感謝してもしきれない」みたいな手紙を書いていたらしい。

 それが二年後には裏切っている。

 まあ、二年もあれば愛情が憎悪に変わるのはサッカーなんか見ているとよくあることだから不思議ではないけどな。同じポジションにライバルを入れようとしているから自分が干されるかもしれないと思うのは不思議じゃない。毛利攻めの後、小早川隆景なんかが織田陣営に入るとやばかったかもしれん。

 あと、佐久間信盛がいきなり解雇からの野垂れ死に展開も受けたこともショックだったのかもしれないな。


 ただし、本能寺の変に関してはうまいタイミングだったと思う。

 忘れられがちだが、この時代の織田家当主は織田信忠だ。信長を倒せば終わりというわけではない。

 戦国時代だからそういうリスク分散が効いていたわけだ。

 しかし、この時信忠も近くの二条城にいて、光秀は両方を討ち取ることができた。

 両者のいるタイミングを逃さずに決起するとなると、外部からの指示や陰謀でやるのは中々難しいんじゃないだろうか。

 

 ただ、その後の展開というのはいただけない感じもある。

 いきなり主君を闇討ちしても織田家の家臣は誰も従わないだろう。事実誰も従わなかった。

 もちろん、毛利が豊臣、上杉が柴田、北条が滝川、長宗我部が丹羽と、反織田包囲網の面々に連絡をとって、二重包囲を完成させるという方法はあるが、これををぶっつけ本番でやるのはかなり至難だ。

 事実、失敗したわけだしな。


 そうじゃない何かがあったのか?

 朝廷や足利将軍家の威光を信じた?

 光秀は歴戦の将だから、それだけを信じたというのは正直腑に落ちない。


 まあ、だからこそ日本史最大のミステリーではあるわけだが、この事件、本当に分からない。

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