第9話 アタワルパに転生しました・後編
1590年といえば、日本では豊臣秀吉が天下統一を果たした年である。
今、この俺……インカ帝国のサパ・インカであるアタワルパは、新首都のボゴタで余生を優雅に過ごしていた。
もうすぐ90歳、長生きしたものである。
俺の目の前では、孫娘のミカエラ・バスティダスが楽しそうに遊んでいた。
「ねえ、おじいちゃん。今度、北に船を出すって本当?」
「ああ、本当だよ。アメリカの大地には、な。黄金や燃える油がたっぷりと眠っておるのじゃ。それを帝国のために使い、わしら南米はますます栄えていくのじゃ」
「南米?」
「ああ、間違えた。ここは世界の中心。
1524年、ピサロを打ち滅ぼした俺は、その後、父帝の活動を助けてコロンビア方面に広い領土を貰った。
そこでインカの優れた薬剤技術をもって、伝統的なコカ茶を精製し、白いコカという薬を開発した。
うん? それってコカインじゃないかって?
何のことだろう、俺にはさっぱり分からんなぁ?
俺はメデジンを中心と定め、沿岸にやってきた連中に、白いコカを渡していく。
これの依存作用は相当なもののようで、コンキスタドールはすぐに「白い黄金」と呼ぶようになった。この白い薬少々がスペイン王やフランス王に届く頃、すなわち末端価格としてはン億になったという。
精製技術はインカの者しか知らない。
だから、奴らはインカに手出しできないようになった。
ピサロの次にやってきたコンキスタドール共はインカの征服を諦めた。
奴らはいつしかカリブ海でカルテルを結成し、大儲けをするようになったと言う。
だが、もっとも儲けていたのがインカ帝国であったことは言うまでもない。
その財力をもって、俺は異母兄のワスカルに勝利し、全インカの唯一の皇帝となった。
やりたい放題とまでは行かないが、アフリカからカバを連れてきてコロンビアの川で育てたり、メキシコまで遠征してアステカ文明も吸収したりといい目を見た。
ただ、白い薬だけで永遠の繁栄は約束できない。やはり金や石油が欲しい。
開発されていない北米は是が非でも手に入れたい場所だ。
風の噂で、白い薬に汚染されたヨーロッパはすっかり覇気をなくしてしまい、オスマン・トルコがフランスまで占領したという。
トルコもまた麻薬大国だ。
最終決戦を奴らとつけることになるのだろう。
だが、我々は負けない。
そう、インカの旗の下に、永遠の帝国を築き上げるのだ!
"女神の総括"
『……あの従妹といい、あんたといい、全く……』
「……フフフ、この作品が始まって以来最大といっていい勝利だった」
『インカ皇帝に麻薬王まで兼ねたら、それはまあ、無敵かもね。いや、その方法はどうなんだって思うけど』
「言っておくが俺は何も悪いことはしていないぞ。この時代はどの国も禁止なんてしていないんだからな。麻薬なんて悪い言い方をするのはやめてもらいたい。中南米の文明にはこうした薬のもたらす恍惚状態も必要だったのだし」
『このまま世界を制するのかしら?』
「いやあ、難しいだろうなあ。俺は危険性を理解していたから、絶対に国内には流通させなかったが、後継者はそれが分からんから自分達で使って瓦解するだろうなあ」
『インカ帝国なのに内戦というより抗争という方が似合いそうね……』
ちゃん、ちゃん(笑)
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