第7話 アタワルパに転生しました・前編

 俺の名前は奥洲天成。


 事前準備がバッチリだったのに惨敗した前回の転生(ロレンツォに転生)は、俺の精神をコテンパンに打ちのめした。

『おーい、天成。テンセーイ』

 遠くからめっちゃん(女神ちゃんの省略)の声が聞こえる。

 だが、俺はもう燃え尽きたんだ。真っ白に。

 灰になったんだ。


『立て、立つんだ、テンセー!」

「……何だよ、しつこいなぁ……」

『天成! この子達を助けたいと思わないの?』

 女神の業を煮やした声が聞こえた。

 モニターには、ボロボロの服をまとった男達が逃げ惑う民族衣装を着た10歳くらいの女の子を襲おうとしている姿がある。

「やめろ! やめるんだ!」

 と叫んだところでモニターが消えた。

『助けに行きたいと思わない?』

「……誰なんだ?」

『場所は南米ペルー。時代は16世紀前半。あんたが転生するのはインカ帝国のサパ・インカであるアタワルパ』

「アタワルパ……」

 というと、インカ帝国がスペインに滅ぼされた時のインカ皇帝ということか。


 分が悪い。

 スペインとインカと、軍事力の差は圧倒的だ。

 しかも、アタワルパに与えられた選択肢というのはそう多いわけではない。

 野球で言うなら9回の時点で10点差負けている時点から、サッカーなら残り時間10分で3点負けているくらいのところから監督になるようなものである。


 しかし、アタワルパの後の面々と比較すると、勝つ可能性があるだけマシだ。アタワルパ以降の面々は、敗戦確定後の異議申し立てしかできないような連中だったのだから。


 先程のシーンを思い出す。

 スペインの連中は神の名前の下に、好き放題したという。虐殺や暴行は言うに及ばず、インカの貴重な文明を全て破壊していった。

 あんなとんでもない連中に一泡吹かせてやりたい。

「……分かった。アタワルパとして転生しよう」

 俺は天界の倉庫に向かい、そこに置いてあった黄金のマスクをかぶる。

「俺は誇りをもって戦うぞ! インカ皇帝として!」

『おー、かっこいいわよ』

 女神が拍手をしてから、ポツリと言った。

『でも、その仮面はインカのやつじゃなく、ツタンカーメンの仮面……』

「……」

 俺はそそくさと仮面をかぶりなおした。

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