第2話 イル・マニーフィコに転生しました・中編
かくして、俺はロレンツォ・デ・メディチに転生した。
転生したのは15歳から、ちょうど祖父のコジモが死んだところからだった。
父ピエロがメディチの新当主。
ピエロの長男である俺はメディチ家の王子的な立場だ。
さて、どのような人生を送るべきか。
事前に色々シミュレートしてみたが、やはりメディチ銀行を失わない方向性の方がいいだろう。
だから、史実では会計・簿記知識ゼロだったが、俺は勉強するぞ!
ルネサンスの原動力としての立場は維持したまま、メディチ銀行も維持するのだ。
俺はただのロレンツォではない、スーパーロレンツォになるのだ!
「ロレンツォ! 何をしているのだ!」
しかし、張り切っていたところで、父親のピエロに呼び出された。
「おまえは何故に卑しい学問である会計や簿記などを勉強しているのだ!? メディチ家は支配者の家! 人文学と芸術を勉強するのだ!」
「で、でも、メディチ銀行を維持しないと大変なことになるよ?」
「メディチ銀行? ハハハ、何を言っているのだ。メディチ銀行は永遠の存在だ。今年も前年比130パーセントの成長をしていると聞いているぞ」
銀行がそんな成長する訳ねーだろ!
不良債権を全く処理しないまま放置しているから、帳簿上だけ好調なように見えるんだよ!
と、説明しても全く理解しやがらねぇ。
「おまえがそんななら、メディチの棟梁は弟のジュリアーノにするしかあるまい!」
げげっ!
勘当宣言まで出されてしまった。
そんなに会計や簿記はダメなのかよ。
ユダヤ人とかの学問ってイメージがあるのかもしれないけど。
というか、ジュリアーノに棟梁の座を奪われたら、パッツィ家の陰謀で俺が殺されるかもしれない。それはまずい。メディチの棟梁をキープしたうえで、パッツィ家の陰謀を避けないと。
かくして、俺は会計と簿記の道を諦めるしかなかった。
銀行は帰ってこない。
やむを得ない。とりあえず痛風を避けるようにしよう。
メディチの痛風は遺伝的なところもあるが、尿酸値を低めに抑えるようにすれば何とかなるはずだ。つまり、贅沢なものを食べ過ぎないこと。きのことかチーズとか食べて適度な運動を取れば大丈夫だ。
そう思っていたのだが。
「ロレンツォ! 何だ、そのやる気のない食事は! そんな食事をしていたら、周りの国に馬鹿にされるぞ!」
またも、ピエロが口を挟んできた。
「私のようなこってりゴテゴテデコレートしたフィレンツェ料理を食べ、他国を威圧せねばならん!」
いや、他国、俺達の料理まで見ないって。外交使節が来てたら別かもしれんが。
それに別に馬鹿にされてもいいじゃん。
「ダメだ! メディチは支配者の家! もっともよいものを食べるのだ! ぐわああああ! 痛風が! 痛風が痛ーい!」
「……」
俺は間違っていたのかもしれない。
パッツィ家と組んで、この馬鹿親父を殺すところからスタートすべきだった。
"女神の一言"
パッツィ家の陰謀というのは、政敵であったパッツィ家がクーデターを起こした騒動を言います。この騒動で弟のジュリアーノが殺され、ロレンツォも負傷しました。
で、その後、メディチ側がパッツィ家に徹底的に報復し、パッツィ家と繋がっていた教皇やらナポリが怒ったりしてしっちゃかめっちゃかになるのですが、ロレンツォはこれをバッチリ収めて、フィレンツェを繁栄に導いていくことになります(横領しながら)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます