第二部・中世の人物に転生しました

第1話 イル・マニーフィコに転生しました・前編

 俺の名前は奥洲天成。

 いつものようにトラックに撥ねられてきたら、どうも様子が違う。

『あ、天成』

「どうしたんですか? 何か資料みたいなものが用意されていますが」

『遂にネタがなくなっちゃったのよ』


 そうか、遂にネタが完全に切れてしまったか。

 最後の更新は10日くらい前だものな。

『今後は作者が気に入った個人に転生させることにしたわ。精々頑張っていい人生を送りなさいね』

「じゃあ、誰に転生するんだ? ナポレオンか? ルイ14世か? それともユリウス・カエサルか?」

『ロレンツォ・デ・メディチよ』

「ロレンツォ・デ・メディチ?」

 また、随分妙なところからやってくるな。

「マンガの『チェーザレ』にも出ていたかっこいいフィレンツェの当主だよな」

『実際には醜男だったらしいけど、ね。明日、転生させるからどういう人生か調べておきなさい。あ、ちなみに転生してきたことを転生先で公言したら即アウトよ。二千回の無限地獄に放り込まれると思っておいてちょうだい』

 怖い、怖い。



 ということで、俺はロレンツォ・デ・メディチの生涯を調べることにした。


 通称『イル・マニーフィコ』、偉大な王という名前の通り、フィレンツェとメディチ家の最盛期を作り出した人物だ。フィレンツェにおけるルネサンスを大いに推進した男である。


 これだけを見ると勝ち組だが、最盛期ということは、こいつの後、メディチ家は下り坂になっていくということも意味している。

 原因は明白だ。

 メディチ家は元々銀行家として頭角を現したが、ロレンツォの祖父コジモの代以降、政治に夢中になり銀行業を疎かにしてしまった。

 ロレンツォも会計学の知識などは全くなかったそうで、銀行家としては落第点だった。

 ということでサセッティという男に銀行部門を任せていたのだが、この男も文化活動に前のめりになってしまい、銀行活動を怠るようになってしまった。

 で、結局、適当な審査で貸してしまって、イングランド王に戦費を踏み倒され、フランス王にも軍費を踏み倒されて、それ以外の貸した金も不良債権として残りまくっていたということで、メディチ銀行の屋台骨はグラグラとなってしまった。


 そんな状態でよくフィレンツェで文化活動を推進できたな、と思うかもしれない。

 これは簡単な理屈で、ロレンツォはフィレンツェの公費を横領していたのだ。

 横領して、別に銀行に補填するわけでもなく、文化活動に費やしていた。


 ロレンツォは43歳という若さで世を去った。

 ただ、メディチの破綻を見ずに済んだという点では早世は良かったのかもしれない。息子のピエロは父親ほど才覚がなかったので、フィレンツェの管理に失敗し、それによって銀行は完全に破綻した。

 次男のジョヴァンニが教皇になって、政治的には成功の余波が続いていたが、銀行という表看板を失ったメディチ家はごくごく普通の貴族になり下がったし、フィレンツェも昔日の栄光を取り戻すことはなかった。



 トータルで見てみると、先祖の貯金を豪勢に使い果たして名君と呼ばれた部類の男だろう。アッバース朝のハールーン・アル・ラシードなんかもそんな感じだが、人気者ではあるのだろうが、公人としてはかなりダメな部類に属する。

 これはいけない。

 ただ、地味に生きると子孫は喜ぶかもしれないが、転生して生きる俺が楽しくない可能性がある。人生、太く短くというのも一理ある。楽しんで生きた方がいいのか、賢く生きるべきなのか、難しいところだ。


 あと、痛風で死んだというのが悲しい。実感したことはないが、これはかなり痛いらしい。

 痛風はメディチ家に遺伝していたらしいから、なりやすい体質なのだろうが、何とか避けたいところだ。


 どうやって生きたものか。

 考えているうちに、転生への時間が刻々と迫ってきていた。

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