第66話 中世で重傷を負いました

「ぐっ! やられた」

「テンセー!」


 自己紹介が遅れた。

 俺の名前は奥洲天成。前世はトラックに撥ねられて死んでしまい、今は中世ヨーロッパの戦場に出ている。

 そこで俺は敵の馬に撥ねられてしまった。前世でも新しい世界でも撥ねられるとは何ということだ。


 戦いには勝利した。

 しかし、馬に撥ねられたことで右足を激しく捻ったようで、感覚が薄くなっている。重度の捻挫をしてしまったかもしれない。


 俺は医師に診せられることになった。

「これはダメだな、切ろう」

「えっ……?」

 この医師、足を触診もしていないし、ほとんど診てもいないぞ。

「ちょ、ちょっと判断が早すぎないか?」

「私はこの道十五年だ。その私が判断するのだから間違いない。切ろう」

「いや、足を切るなんて重大事だから、もうちょっと慎重に、だな」

 しかも中世は麻酔がないんだぞ。いきなり足を切り落すって話が早すぎるだろう。

「騎士テンセイ、君は乱世の重大な概念を分かっていない。『悪・即・斬』。悪いところはすぐに斬らなければならないのだよ」

「いや、それ使い方おかしいし!」

「君、患者は興奮している! 寝かせたまえ!」

 えっ、麻酔?

 麻酔はなかったはずなのに?

「失礼します」

 と、突然現れた体重100キロはあろうかという看護婦が俺の後頭部に手刀を食らわせた。

「ぐぇぇ……」

 物理麻酔かよ。俺は意識を失った。


 どれくらい時間が経ったのか?

「目覚めたか、テンセイ」

「あれ、先生。めちゃくちゃ足がズキズキと……どわぁ!?」

 気が付いたら、俺の右足は太腿のあたりでスッパリと斬り落とされていた。

「寝ている間に手術は済ませておいた。もう大丈夫だ」

 本当かよ?

 アッと言うまに斬り落としたのか?

 でも、何だかズキズキと痛むんだが。

「痛むのは仕方がない。だが、悪い部分は斬り落としたはずだ。それとも、まだ上の方に悪いところがあるのか?」

「い、いや、もうないと思う」

 この医師なら、『ならば腰のあたりから斬り落とそう』とか言い出しかねないからな。

「では、私は次の患者の手を斬り落としてくるよ。フフフ、我がナイフが手足を求めておるわ」

「こ、こら、それさっき俺の足を切り落とした奴じゃないのか?」

 そんなので斬り落としたら感染症とかどうするんだよ?

 って、そんな知識もないんだっけ……?

 うっ! 急に足が痛み始めてきた気がする。


"女神の一言"

 そうです。

 麻酔もなければ、予後措置も不十分ということで、むしろ復帰する方が大変という世界でした。


 以前、五体満足にさせないために失明させるという話がありましたが、手足を斬り落とすことからすればマシだったのかもしれませんね。

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